それまでは、刑事の仕事もただなんとなくやってるだけで、

何も気に留められず、気にかけることも無く、

何も無い日常を、ただ疎ましく思うだけ




先輩の愚痴はウルサイ。

仕事だって空回り

何も楽しくなんてなかったから。







あの日まで。







＋＋common place＋＋







「矢部、矢部っ！」

「なんやねん、山田。」

「あのバカ、なんとかしてください。」

「は？」

「この天才物理学者に向かってバカとはなんだ、You！」

「あー、上田センセですか。」

「矢部さんも！何納得してるんですか。」

「いやいや、山田、お前が悪い！」

「おい、矢部！」

「はっはっはー、所詮は頭の差だな。」

「単細胞のくせに」

「何だと、貧乳。」

「巨根。」

「You〜〜〜〜っ！！」 「ばーかばーか！！えへへへへー！！」

「待て！You！！」







「相変わらずですねー。山田さんと上田先生。」

「そうやな。」

「こりないんですかね？」









出会ったのはいつだったか。

一方は日本を代表する物理学者

もう一方はインチキ貧乳マジシャン

全く境遇の違う、凸凹コンビ。









「さぁ？上田センセも子供っぽいトコあるからなぁ。」

「でも、山田さんといる時だけですよね。」







そんな一見ありえない二人

普通だったらうまくやっていけるはずもないのに







「そうやなぁ…。ま、そうかもな。」

「絶対そうですよー。僕でもそう思うんですから。」

「お前じゃアテにならんわ。」

「何でですかー！」

「東大生は頭がお堅いからなぁ。」

「バカにしてるんですか！？」

「まぁ、落ち着けや。」









「上田のバカー！アホー！単細胞―！ゾウリムシー！」

「何大声で言ってんだ！」

「何ムキになってんですかー？えへへへへ！」

「舐めてると痛い目見るぞ？You?」

「え・・・？」









瞬間、

上田センセは山田を捕まえた

ここから、よく見える距離で、

山田はふわりと、宙に浮いた







「ば、ばかっ！何してるんだ！おろせっ！ばかっ！」

「Youは軽いな。」

「な・・・」

「まるで羽が生えてるみたいだ。」

「・・・そんなコトいっても喜びませんから！」

「照れてるぞ。」

「！？お、おろせっ！バカっ！」







見てるこっちが恥ずかしいっちゅうねん。







「センセー、いちゃつくのはいいんですけど、よそでやってもらえますー？」

「あ、や、矢部さん！」

「う、上田！早く下ろせっ！バカっ！」







何をやってるんだか。

でも、二人を見てると、何故か顔がほころぶ。







「センセら、付き合ってますのん？」

「んなわけ、あるか、このボケッ！」

「何や、山田には聞いてへんわ！」

「まぁ、ぼちぼちですよ。」

「何がぼちぼちだ！」

「照れてるぞ、You。」

「くぅ――――っ！」

「山田の負けやなー。」

「おだまりっ！」

「ま、いいやないですか、いつもの二人で。」

「そうですか？」

「何がだ！っていうか、何笑ってんだ、矢部！」









何って、あまりにも楽しいから

センセと山田に、いつも振り回されて

訳わからん事件にいつも巻き込まれて

くだらん仕事やったはずやのに







それでも




楽しいと思えるようになったのは







上田センセと山田のお陰かもしれへんな







センセと山田がケンカしたり、

ちょっとええ感じやったり

菊池がアホやったり







ワシももうええ年やから

ちょっと疲れてたのかもしれへんな







そんなコト全部見落としてた







それはほんのささいなコトやけど

やっと見つけられた







大切な仲間と呼べる存在







声がして、視線が合って

それだけで　ワクワクするんや








「何って、楽しいからや！」









今日を生きててよかったと

心からそう思えるから




刑事の仕事も

きっともっと楽しくなる




何も無いありふれた日々も

重ねる度におもしろくなるだろう









「菊池―――！仕事や仕事っ！」









お前らがいてくれて、救われたわ



皆がいつも通りやないと　

ワシも調子が出ぇへんのや









それがワシの日常で




そして




幸せ




そして







自分の居場所。




＋＋Fin＋＋