>>> 01 . たとえばそれは



 胸が痛むのはなぜだろう。

 唐突に、この胸に細く長い針を、突き刺したかのような痛みが走る。
 なぜだろうという疑問が浮かぶのとは裏腹に、答えは分かっている。
 そして一層、胸の痛みに苦しむのだ。

「う…ん」
 白いシーツの上で、白い肢体が身じろぐのを眺めていると、妙に物悲しくなる。
「桐…」
 名前を呼ぼうとしたが、途中でやめた。呼んだってどうせ、聞こえない。だからかわりに、そっと髪に触れた。
「何?」
「えっ?!」
 その、髪に触れた直後、だ。髪に触れた俺のこの腕を、他ならぬ彼女が掴んだ。そして、口を開いたのだ。
「寝てたんじゃ…なかったのか?」
「眠りは浅い方なのよ。それより、何?」
「え?」
 ずっと背を向けていた彼女が、顔だけオレの方に向けて、いつもの無表情のまま、続ける。
「さっき。呼ぼうとしたでしょ、私の名前」
 その時点で既に起きていたのか…
「何でも…ないさ。ただほら、その…肩出てたから」
 ああ…と、彼女の顔に、僅かに笑みが浮かんだ。
「道理で、何だか寒いと思ったのよ。かけてくれれば良かったのに」
 無茶な話だ…言えやしない、その白い肩に見惚れていたなんて。
「悪かったな」
 ほら。そう言いながら、はだけていたタオルケットを引っ張って首の辺りまでかけてやると、彼女は笑った。
「ありがとう」
 ズキリと、また胸が酷く痛んだ。
「いや。もう寝ろよ、明日、早いんだろう」
「それはあんただって同じでしょう」
 クスクスと、いつもの人を少し馬鹿にしたような笑い声を立てて、顔を向こうに戻す。どうしてだろう、いつもそうだ。

 君はオレに背を向けて眠る。
「…そうだな、もう寝るよ」
 オレは向き合って、君の顔を見ながら眠りたいのに…
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 背を向けられると、拒絶されているようで不安になる。こういう風に、一緒に眠るようになっても尚。いや、こういう風になったから、かも?
「…」
 唇だけ動かして、彼女の名を呼んだ。決して応えないと分かっていながら。そうして、ごめんと続ける。誰への謝罪なのか、自分でもよく分からない。ただそうしたかっただけだ。
「緒沢」
 ビクッとした。急に名前を呼ばれて、正直、心底驚いた。
「なん…だ?」
「ごめん、なんでもない」
 やめろよ、そういうの。お前が謝るなんて、らしくねえ。
「そうか」
 胸が痛むわけを、オレは知っている。だけど、気付きたくないんだ、本当は。
「桐子」
 今度はオレが、名前を呼んだ。
「…何?」
「お前…さ」
「うん?」
「…オレの事、どう思ってる?」
 聞きたくないけど知りたいと思うのは、当然だろう?
「何よ、唐突に」
 答えたくなければそれでもいい。
「気になっただけだ」
「ふーん」
 でも、知りたいんだ。
「何とも思ってないんならそれでもいいんだ、別に」
「じゃあ何とも思ってない」
「おい」
「冗談よ」
 ったく、人の気も知らないで…ふてくされるようにオレは、彼女と同じように、彼女に背を向けた。
「もういい、今のはただの寝言だと思って忘れてくれ」
 聞くのが恐くなったから、なんて言えないな。格好悪い。そう思った時、耳元で彼女が小さく囁いた。
「大丈夫、嫌ってなんかいないから」
「心にも無い事言ってんじゃねーよ」
 クスクスと、また笑う。
「馬鹿ね」
「あぁ?」
「あんたが気に病む必要なんて、どこにもない」
 どきんとした。タオルケットの下で、オレの手を握ってきた。ありえないシチュエーションに、なぜか頭痛がしてくる。
「何が、だよ」
 不安と期待の中で、その手を強く握り返してみた。

「何もなかった事になんて出来ないんだから、私は後悔してないから」

 人の考えを、読む事が出来る。いつか誰かが、彼女の事をそんな風に言っていた。そして彼女は、本当に?と聞いたオレに、あれは私の被害妄想だったと答えた。
 けれど…今、確かに彼女はオレの心を読んだに違いない。オレの不安を和らげる為にか、それとも、ただ単純に、彼女の気まぐれだったのかもしれない。

 …お願いだから、こうなった事を後悔しないで。例えオレの事を、何とも思っていなくたって、それでもいい。
 こうなった事だけは、後悔しないで。
 オレは君が好きなんだ。色々あったけど、やっぱり君が好きなんだ。
 君に恋したなんて言ったら、馬鹿にするだろうけど仕方ないじゃないか。
 
「本当よ、嫌いじゃないから」
 まるでオレの不安を取り除くかのように、再度囁く。けれどそれが、針のように俺の胸を突き刺さる。
 いてぇんだよ、馬鹿野郎。
「…うるせぇ、早く寝ろ」
 そう言いながら、オレは瞼を下ろした。きっとそのまま、オレの目から伝った涙は枕を濡らすんだ。まるで思春期のガキみたいに。

 好きなんだ。
 好きなんだ。
 死にそうなくらい、オレは君が好きなんだ。
 でも君が、オレを愛してない事を知っているから…胸が痛むんだ。
 例えばそれは、同情にも似た優しさ。



FIN

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初のQUIZ小説は、某QUIZ二次小説サイトさんの影響を浮けまくっている…
自分でそれがよく分かる(汗)
ごめんなさい…と謝っておきませう。
なるべく早く射障流のQUIZ小説を書けるように努力します、はい。

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