>>> 02 . こんぺいとう



「なあ、明日暇か?」
 ベッドの上で、やわらかい寝具の中で、人の肌と体温を感じながら眠るのは好きだ。そんな、ある種至福の時間を過ごしている時に、唐突に奴は言った。
「何?突然」
「いや、ちょっとな。明日、夜なんだけど、空いてるか?」
「何言ってんのよ、空いてなくたって勝手に来るくせに」
 そう言うと、はにかんだ笑顔を浮かべながら、奴は私の肘の辺りをついてきた。
「いーじゃねえか、別に」
 まぁ、合鍵を渡したのは私の方だから今更文句を言っても仕方が無いけれど。
「そうね、どうでもいいわ」
「おい」
 馴れ合いは好きじゃないけれど、こういう遣り取りは嫌いじゃない。なんだか、楽しいから。
「いいから、続きを話してよ。何かあるの?明日」
「ああそうだった、本題を忘れるところだった」
 こういう、抜けたところが一緒にいて飽きない。
「で?」
「うん、明日、星拾いに行かねえか?」
「何?」
 ん?
「だから、星拾い」
「何それ」
「え、知らねぇ?」
「知らない。何よ、星拾いって」
 なんか…たまに変な事言うけど。
「オレのオヤジがさ、なんつーか、星マニアでよ」
「うん」
 でも、思い出を噛み締めるように話し出して…こういうのも悪くない。
「普段はすっげーこえーんだけど、たまに連れてってくれたんだよ」
「その、星拾いに?」
「そう」
「だから、何よ、それ」
「簡単に言うと、星を眺めにって意味なんだけどよ。オヤジが言うんだよ、在昌!星拾いにいくぞ!って」
「…へぇ」
「お前、今呆れただろう」
「ううん、あんたにもそんな時期があったんだと思って」
「そんな時期?」
「父親と星を見にって」
「ああ…まぁな」
 ふと、静かに私の髪に手を梳いてきた。くすぐったい。
「で?」
「平たく言うと、星を見に行かねーか?」
「めんどくさい」
「身も蓋もない事言うなよ」
「星なんて、この辺でも見えるじゃない」
「バーカ、そんなもんと一緒にすんじゃねーよ」
「そりゃそうだろうけど」
 今更星なんか見ても…
「明日、迎えに来るからな」
「有無を言わせないのね」
「これぐらいしねーとお前、見る機会ねーだろ」
 そうかも。
「考えとく」
 おもむろに、今までとは違う手付きで、梳いていた髪をくしゃくしゃと撫でてきた。
「ちょっと、乱れる」
「もう遅いって」
 ときどきこいつ、凄くガキくさくなる。

「明日…」
 少しの時間が過ぎた後、気になって聞いてみた。
「ん?」
「何で明日なの?」
「ああ、星拾い?」
「…そう」
 もう突っ込む気にもならないほど、耳に馴染む。
「明日、夜も天気いいんだよ。それに、新月だから」
「新月?それって、月は見えないのよね」
「それは知ってるんだな」
「馬鹿にしてんの?」
「違う違う、見直したんだ」
「同じ事じゃない」
「同じじゃねーよ」
 くすくすと笑い合う、すごく平和な場所にいるような気がする。そんな風に微笑む私に気付く事無く、奴は続ける。
「とにかくよ、月がないから、普段は月明かりに隠れてる小さい星も見えるんだ」
「そうなんだ」
「すっげー綺麗だぞ」
「ふぅん」
 そんな星空、見たことない。一緒に見られるなら…嬉しいかも。
「ビニールシート敷いてよ、寝転がって見るんだ。そしたら何ていうか…うん、アレだな」
「アレとかソレとか、言うのって呆けてきてる証拠よ。大丈夫?」
「余計なお世話だよ」
 私の突っ込みにクククと笑う。この笑い声って、結構好き。
「で、アレって何よ」
「ああ、アレ…金平糖ってあるだろ」
「とげとげの小さい砂糖菓子でしょ?」
「そうソレ。その金平糖をさ、紺碧の布っきれの上に散らばしたように見えるんだ」
「それで星拾い?」
「そう」
 じゃあ空に散らばる星は、口に入れたら甘いのかしら?
「…楽しみ」
「そうこなくちゃ」
 どうしよう。面倒なのに、いつのまにか私、その気になってる。
「じゃあ緒沢、夜食に何か作ってきてよ」
「おう、うまいモノ作ってきてやるよ」
 ほら…ね?それもこれも、きっと奴の所為だ。こんなに他人に流される自分がいるなんて…信じられないけど。



FIN

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中途半端に終わっているように見えるけれど、狙い通りです(笑)
そしてまたベッドの中での遣り取り。
やっぱ桐子さんって、淡白な部分が特長だよね。
なかなか大人な二人の遣り取りがうまい事行きませんが…そしてオリジ設定万歳だ(笑)

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