>>> 04 . 痛み



 好き。
 好き。
 好き。

 嫌い。


「つっ…」
 短く低い、叫ぶような唸り声。
「おざ…」
 たまらなくなって、名前を呼ぼうとしてやめた。
「きりっ…こ」
 なのに、この男は構わずに私を呼ぶ。強く、きつくその腕にこの身を抱きながら。

「…痛い」
「あ、わりぃ」
 私の言葉に、緒沢は素早く腕をほどいた。抱え込むように抱きしめられていた為に、きつくて、肩を抱く腕には馬鹿みたいに力が篭っていて…赤い痕がつくほどに。
「嘘、痛くない」
「ばーか、ヘタな嘘つくなよ」
 真っ赤になってる、痛くないわけないだろ。はにかんで、ごめんと続けながら私の頭を軽く抱く。
「嘘よ、本当に…」
 無駄にあがいてみる。緒沢の言うとおり、ここまで赤い痕が残るほど締め付けられたら痛いのは当然なのに。でも…
「ちょっと力入れすぎたな、ほんと、悪い」
 緒沢は、優しい。馬鹿みたいに真っ直ぐで…猪突猛進型とでも言うのだろうか、それでいて鬱陶しいほどに熱い。
「謝らないでよ、気持ち悪い」
 その熱さは、掴まれた肩に直に当たると火傷しそうなほど痛々しくて。でも、いともあっさりと解かれると、急激に襲い来る消失感に眩暈を感じる。

 だから嘘をついたのに、火傷してもいいから抱いて欲しくて。

「…なあ」
「ん?」
 でも、私と違い人の心の内を読めないこの男には到底わかりはしないだろう。
「まだ痛いか?冷やした方がいーかな?」
 けれど、優しい。人を思う気持ちが、流れ込んでくる。
「…ううん、もう痛くないから」
 だから、抱きしめて。それでもなお、願う私は高慢だろうか?
「そうか?じゃぁ…」
 手放さないで欲しいと願うのは、勝手だろうか?
「抱きしめていいか?」

 願うのは、駄目だろうか?

「…」
「あ、いや、なんでもない」
 優しい人…
「なんでわざわざ聞くのよ、いつもみたいに勝手にやればいいのに」
「そう言うなよ。いてぇと思って一応聞いたんだから」
 勝手にしろと言うなら勝手にするけど…そう続けながら、静かに私を抱く腕。包み込むように。
「緒沢…」
「ん?あ、やっぱ痛いか?」
「…緒沢」
 この身を抱く腕から、僅かに力が抜けた。
「どうした?」
 名前を呼ぶだけで、心が痛い。
「今日は、聞かないのね」
「何を?」
「…俺の事、どう思う?って」
 身を強張らせるのが伝わる。
「何言って…」
「聞くじゃない、いつも。唐突に」
 今なら…あんたが気持ち悪がるくらい、正直な答えを教えてあげるのに。
「聞くかよ、ばーか」
「馬鹿に馬鹿って言われたくない」
「なんだよ、ばかじゃねーか。馬鹿正直」
 少し、腕に力が篭る。
「あんたには負けるわよ」
 そうか?照れくさそうに笑う…ほら、あんたの方が馬鹿正直じゃない。

「ねえ」
「んー?」
 背中で感じる、胸板とか。包み込むように肩と首を抱く、腕とか。ダイレクトに流れ込んでくる感情、とか。
「私の事、どう思ってる?」
「何言ってんだよ」
「いつもあんたが私に聞く事じゃない」
 何もかもが、熱くて、痛い。
「んじゃぁなんとも思ってない」
「人の真似しないでよ」
 嘘吐き。そう続けると、困ったように小さく声を立てて笑った。
「嫌いだな」
 ずきりと胸に痛みが走る。
「嫌いなんだ…」
「オレは嘘吐きなんだろ?じゃぁいいじゃねーか」
 それは嘘なんだからと、また笑う。

嫌い。
嫌い。
嫌い。

好き。

「ごめん、私が悪かった。あんたは馬鹿正直」
「だな」
 死ぬほど好きだよと、掴んだ赤い痕に口付けて、悲しい声が囁いた。



FIN

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ちょっと首かしげな感じ。
01.の話の、桐子さんバージョンみたいな…?
なんだか分からないけど、オザキリを書く時はいつもベッドの中のような気がする(汗)
桜話も実は危なかったのよね…


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