>>> 06 . 涙のワケ



 悲しいと、涙が出る。それは遠い昔の事…今は、堪えてしまう。
「緒沢?」
 幼い頃は、何が悲しいのか…それさえ分からずに泣き喚いてすらいたのに。
「よ、よぉ…」


 オレはいつも、なぜか、君の影を探しては泣きたくなる。なぜか悲しくて。


「何?」
「いや、別に…さ」
「何よ、用があるなら早く言えば?」
 いつもと同じ、いつも同じ。
「用、っつーか…」
 いつも、そう。いつも、凄く緊張する。
「あぁ、分かった」
 不意に、穏やかな表情を浮かべて桐子は微笑んだ。
「あ?」
「仕事、何時に終わるか分からないけど…それでもいいなら、夜、行くから」

 心臓を、鷲づかみにされるような、痛み?

「あ、あぁ…」
 なんで。
「じゃぁ、夜に」
 なんでお前から言うんだよ、いつも…
「夜、に」
 口ごもるオレの横を通り際に、桐子は静かに肩を叩いていった。
「…あぁっ、くそっ!」
 道脇にあるゴミ箱を蹴りつけたい衝動に駆られるが、さすがに警察官であるオレがそれをするのはまずいだろうと押しとどめた。
 だがしかし、今のははっきり言って、いや自分で言うのもなんだが、情けないぞ!

 桐子…桐子、桐子。
 会いたくて、抱きたくて。でもオレはいつになっても、誘うのにものすごく緊張する。ガキじゃあるまいし。
「何のためにわざわざ…」
 会いたくて、抱きしめたくて、それを伝える為に、わざわざ忙しい合間に抜け出して桐子の元に駆けつけるのに。
 いつも、オレは何も言えなくなる。どんなにその身体を抱きしめても、慣れない、これだけは。

「おかえり」
 ガタッ…思わず後ずさり、肩を閉じかけた玄関ドアにぶつけた。
「ってぇ…」
「何やってるの、相変わらず馬鹿ね」
「る、るせぇ」
 やべ、びっくりした…
「そ、それより、仕事…早く終わったのか?」
 いつも、結構遅くまで桐子は仕事をしている。まぁ、忙しい職場だから仕方ないけど…早いのは珍しい。
「んー。他に何もする事ないし、先に上がっちゃったけど…あ、駄目だった?」
 "オレ"の部屋で、"オレ"のベッドで。桐子は当然のように横になって、うつぶせになって、何かを見ていた。
「いや、鍵…渡してるし」
 そういえば、合鍵を渡したのはいつだっけ?

 涙ってのは、なんで出てくるんだろう。
「そういえば、今日、警視庁の近くで何かあったの?」
 オレの買ってきた弁当を食べている時、桐子が唐突に口を開いた。
「あ?いや、別になんもねぇけど?」
「あ、じゃぁ警視庁に用があったんだ」
「は?」
 何言ってんだ?
「だって、今日来いなんて言う為だけに来たわけじゃないんでしょ?」
 っと、危ねっ…弁当ひっくり返しそうになった…
「あ、あー、ちょっとな、警視庁に書類取りに来たついでで」
 やっぱり。桐子は満足そうに笑って、空になった弁当箱をビニール袋に入れた。あぁ、ったく、本当に馬鹿だな、オレ。
 しょうのない嘘ついてる。割り箸を咥えながらため息をついているオレを見て、桐子は笑った。
「たまには会う為だけにきたとか言ってみなさいよ、見直してあげるから」
 からかうような口ぶりで。


 その日、オレは抱きたかった桐子の身体を抱きながら、泣いた。
 オレを見透かすその目が愛しくて。
 会いたいと言えなかった自分が情けなくて。
 なんだか無性に悲しくて。



FIN

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ラララ、緒沢さんラブ(笑)
私の中でのオザキリは、緒沢さんが思春期のガキのようなんです。多分。
そしてなんだかいつも、胸を痛めてるんです(笑)
暗い感じの話が好きです。
脈絡なくても書きたくなるんです。
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