>>> 08 . 月が落ちる前に



 夜が明ける少し前、窓の外、空の色合いは水色がかった紫。
 空に青以外の色がある事を、初めて知ったような気がした。
「ん…」
 隣で身じろぐ彼女の白い肩に、赤い痕。オレの付けた、痕。
「桐子…」
 顔を近づけて、その赤い痕にそっと舌を這わせてみた。桐子の味がする。
「ん、何?」
 眠りは浅い方だと、彼女はいつも言う。今日もそうだったのだろう、肩に感じた感触に目覚めた桐子はぼんやり眠たそうに、オレを見た。
「何でもねーよ」
 答えながら、オレは続ける。赤い痕に口づけて、舌を這わせて…
「ちょっ、くすぐったいんだけど」
「いやか?」
「…ずるいのね」
「お前ほどじゃねーよ」
 眠い…オレの頭を抱え込んで、桐子は小さく囁いた。
「オレも眠い、抱いて寝ていいか?」
「私はあんたの抱き枕じゃないわよ」
「いいじゃねーか、たまには」
 くすくすと、応えずに笑う。返事と受け取ってオレは、そのままそのか細い身を抱きしめた。あ、いいにおいがするな…
「空、明るいわね」
「んー…もうすぐ夜明けだからだろ」
 水色がかった紫色の夜空…あ、まだ夜空でいいんだろうか?まぁどっちでもいいか、なんて思いながら、桐子が見上げる空をオレも見つめた。
「綺麗な色ね」
「お前の口から綺麗とかって言葉が出ると、ちょっと不思議だな」
「私がそういう事言っちゃおかしい?」
「いや。ただ、いつもは口に出さないだろ?だから…」
「だから?」
 あぁ、眠てぇなぁ…
「だか、ら…」
 やべぇ、本気で眠てぇ。
「緒沢?」
「んー」
 続きを言うかわりに、身を抱く腕に力をわずかに込めた。
「眠いんだ」
「んー、おぅ…」
 綺麗な夜空、夜明け前の…
「緒沢…」
 ふっと、髪を手繰られる感触。あぁ、桐子の手か。
「もう、寝た?」
 静かに、ゆっくりと桐子は髪を撫でていく。こんなの滅多にないなぁ…眠くて応えられないのが悔しいな。
「寝ちゃった?ねぇ…」
 こいつ…こんな甘い声してたっけ?
「寝ちゃったんだ…」
 しょうがないヤツ、人を起こしておいて…小さく呟いて、桐子はオレの額に唇を当てる。もしかして、オレが寝てるだけなのかもしれない。
 
 本当の君が見れるのは。

 深い眠りに落ちていく前に、何とかしてオレは目を開けた。
 桐子、君が見える。薄紫の空をバックに、なんて優しい顔をしているんだろう…
 ほら、直に夜が明けるよ。
 金色に輝いていた月も、君の笑顔と共に落ちていく。



FIN

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ややや、なんか妙になった?
雰囲気は間違ってないんだけどね、文体が多少妙な具合かもしれません。



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