>>> 10 . 秋色



 カサリ。
「ん?」
 頭に何かが当たったような気がした。
「動くなよ、取ってやるから」
 何かと、手を伸ばしたが声に止められ、桐子は構わず踵を返した。
「あぁっ、動くなって」
「緒沢…あんたずっと後ろにいたの?」
「いや、今見かけたんで追ってきたところだよ」
 緒沢はそう言いながら、真正面を向く桐子の横に周り、髪にそっと触れた。
「取れた」
「何?」
 ほら…そう言って目の間に出されたのは、黄色い扇形の、イチョウの葉っぱ。
「今度よぉ、銀杏拾いに行かねぇか?」
「何で?」
 渡されたイチョウの葉っぱをなんとなく受け取って、ひらひら揺らしてみる。
「茶碗蒸し、作ってやるよ。ついでに栗も拾いに行くか、いい場所知ってるんだ」
「…拾うの好きなの?」
「あ?」
「星とか、銀杏とか栗とか」
「あぁ、ははっ、そうかもな」
 手を伸ばして、緒沢は桐子の髪をくしゃりと撫でて笑う。
「何よ」
「行こうぜ、今度の休み…確か同じ日だったろ?」
「無理よ、携帯繋がらないと呼び出しに応じられない」
 その言葉に、くくくっと笑う。何がおかしいのだろうかと、桐子は怪訝そうに横を歩く緒沢に目を向けた。
「大丈夫だよ、都内の方が穴場が多いんだ」
 ハイドパークのような大きな公園とか、幼稚園とかの近くの公園とか。
「公園?」
「子供の遊び場にゃ、大抵あるんだぜ」
 ふーん…桐子は興味なさそうに、指先でイチョウの葉を揺らす。
「茶碗蒸し、嫌いか?」
「あまり食べたことないわ」
「んじゃオレが、すっげーウマいの作ってやるよ」
 カサリ、足元で鳴る音。
「あ」
 桐子の手から、落ちた葉。
「どうした?」

 ここ、イチョウ並木だったんだ…

「桐子?」
「え?あぁ、ごめん、何の話だっけ?」
 まっすぐ前を見て歩いていたのに、今まで気付かなかった。道の両脇で金色の葉を揺らす木々。
「今度の休み」
「あ、銀杏と栗?」
「そうそう」
 地面までも金色で埋め尽くされた道。
「いいんじゃない?」
「よし決定」
 嬉しそうに笑う緒沢の頬に、沈みかけた夕日の赤が映る。
「秋って素敵ね」
 小さく呟いた桐子の声は、多分誰にも聞こえなかっただろう…



FIN

>>> back


季節が秋なので合わせて書いてみました。
なんて事のない二人の遣り取りって好きです。
そういえば、緒沢課長は料理が上手だから、茶碗蒸しもさぞかし美味しい事でしょう…
いいなぁ、私、好きなんです、茶碗蒸し(笑)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送