>>> 019 . 拍手3 FLOWER



「桐子、よぉ」
 警視庁、鉄骨とコンクリートで出来た高層ビルのような、四角い箱。そこはとても、居心地が悪い。だから、なんとかして逃れようと与えられた席を離れ、部屋を出たすぐの事。
「…何?」
 居心地の悪さは、どこにいても同じなのかもしれない。まるで異質な存在を見るかのような周りの視線が、そう告げていた矢先の事。
「元気そうだな、もうすぐ昼だけど、一緒にどうだ?」
 片手に掲げるそれは、オレンジ色と黄色の、やけにチカチカするチェックの柄の包み。四角い、箱。
「…ど」
「毒なんか入れねーよ、オレの飯なんだから」
 言おうとした事を言われて、戸惑うように眉を潜めた。
「今日、天気いーしよ…中庭行くか。どうせ食堂は混んでるだろうしよ」
 YESもNOも待たずに、手を引いて歩き出す。

 空は高く、けれど手を伸ばせば届きそうなほど近い場所で青く輝いてた。
「眩しい…」
「天気いーと気持ちいいよな」
 手首を握っていた手を離し、緒沢が太陽を背に微笑を向けた。
「目、チカチカする…」
 桐子は離された手首を僅かにさすってから、目をこする。青い色がやけに眩しくて。
「薄暗い部屋に篭ってばかりだからだろ、たまには太陽の光浴びねーと、カビるぞ」
「嫌な事言わないでよ…」
 少し気だるそうに、桐子は何かを諦めたかのように、近くのベンチに腰を下ろした。そうして、ふっと見上げる。
 緒沢の表情を、覗き込むように。
「あれ?」
 と、緒沢の視線が桐子からずれた。
「何?」
 そのまま、ベンチに四角い包みを置くと屈んで、桐子の足元に手を伸ばしてきた。
「ほら、見ろよ」
「何…」
 不意に手を引かれて、目に入ったのは、黄色い小さなタンポポ。
「気のはえーヤツだな」
 ベンチの、足元。黄色いそれが精一杯背伸びしている。
「そう、ね…」
 緒沢が何気に、腕を伸ばした。それを、長い指先でそっと、揺らす。

 それはまるで、優しい息吹。
 そっと、壊さないように触れる指先。

 触れられる一輪の花が、羨ましいと思った。



FIN

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かなり前から今日まで拍手のお礼画面に載せていた小説。
桐子さんは、自分がどれだけ緒沢に想われているのか、実はあまりわかっていない。
自分にはそこまで想われる理由がないとか思ってるので、どこか淡白。
本当は愛されたいと思っているのに。

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