なぜ?





 「 球技 」





「あほぉ、どこ狙って打っとんじゃ!」
 矢部に怒鳴られ、はっとした。
「あ、すみません。つい力が入ってしまって…」
 奈緒子は、遠くの方にボールを拾いに走る菊池の後姿をぼんやりと眺めながら、ちょこんと頭を下げた。
「YOU…苦手なのか?バレーボール」
 隣で上田が口を開いた。
「スポーツ全般が苦手なんですよ」
 そもそもなんでこのメンバーでこんな事をしているかというと、イマイチ分からない。
「この俺が素晴らしいスパイクを見せてやる」
「スパイクって、靴…?いや、ってか何でこんな事してるんでしょう?」
 首をかしげると、上田は一瞬、口を真一文字にして固まり、それからフイと矢部の方に顎をやった。
「ん?」
「遅いんじゃ、ボケェ!早く投げろ!」
「はい、いきますよ〜」
 矢部は菊池に怒鳴りつけ、その菊池は戻りながら白いバレーボールを高く放り投げた。
「おぉ、きた。そりゃ!今度はちゃんと打てよ、山田ぁ!」
「え?うわっ…えいっ!」
 よく分からないまま、奈緒子は飛んできたボールを、なんとか上田の方に向かって打つ事が出来た。

「上田センセー、ちょっと手伝って頂けませんかねぇ?」
 始まりは、矢部のこの一言だった。
「なんですか?矢部さん」
「実は今度、バレーボール合コンがありましてね」
「は?」
 相棒が菊池に変わっても、矢部の普段の生活はあまり変わっていないようだった。
「そいでですね、学生時代以来そんな事やっとらんかったもんで、こりゃ練習しとった方がいいんではないかと、考えましてね」
「は…ぁ、そうです、ねぇ」
 上田もどう答えたらいいものかと、とりあえずその考えに賛同してみる事にした。
「センセーもそう思いますか?だったら話は早い、上田センセー、ちょっと手伝ってください」
「え?」
 まずい事を言ってしまったと後悔しても、時すでに遅し。である。そんな訳で、近くの公園で練習する事になったのだが、いい年した男三人が円陣組んでバレーボールをするなんて…上田の頭の中には羞恥心が芽生えたのだった。

「殺人スパイクッ、とりゃああ!」
 とりあえず女性が一人でもいれば、羞恥心も多少は薄まると考えた上田は、有無を言わせず、奈緒子も参加させたのだった。
 そして得意のスパイクが矢部に向かう。
「おわっ、ヤバイ…菊池!」
 自分には取れないと睨んだ矢部は、慌てて菊池の腕を引っ張って自分の前に立たせた。
「え、何するんですか矢部さん…だっ?!」
 バシーン…
 見事、上田のスパイクは菊池の顔面を直撃したのだった。
「だ、大丈夫ですか」
 さすがに今のは痛いだろうと奈緒子も思い、上田と共に菊池の元に向かった。矢部が支えているものの、軽い脳震盪でもおこしたようで目がぐらぐらと泳いでいる。
「あちゃー…」
「菊地さんもこうなってしまったようだし、少し休憩しませんか?」
 悪いと思っている様子の矢部に、上田は優しく声をかけた。
「そーですなぁ。おい、大丈夫か?」
「ちょ、ちょーちょが見えます。顔がガッツ石松のちょーちょが…」
 とりあえず近くの木の下に菊池を横たわらせ、水飲み場で濡らしてきた上田のハンカチを、奈緒子が菊池の額にのせてやった。
「おい、それ俺のハンカチじゃないか!」
「いいじゃないですか、固い事言うな。男だろっ」
 そして三人も木陰に座り込んだ。
「いやー、しかしセンセーは何をしてもパーフェクトですなぁ」
「いやぁ、ははは」
 矢部は上田に満面の笑みを見せた後、奈緒子の方にはその顔を歪めてにやりといやな笑みを見せながら口を開いた。
「お前は何をさせてもパッとせんなぁ」
「余計なお世話ですっ」
 本当の事を言われて顔をそむける奈緒子だが、こんなヅラ刑事に馬鹿にされて黙っていられるはずもなく、ジロッとすぐに睨み返して反撃した。
「そーゆう矢部さんだって、上田のボール取れなかったじゃないですか。あーぁ、菊地さんカワイソー」
「あ、あれはだな、菊池に見せ場を譲ってやったんや!」
「へぇ〜、そーは見えませんでしたけどね」
「う、うるさいんじゃボケっ!」
 わたわたする矢部を見て、奈緒子はしてやったりというように笑った。
「あはは。それにしても…たまにはこういうのもいいですね」
「ん?」
 いじける矢部をよそに、奈緒子は上田に話し掛けた。
「こうやって、お日様の下で体を動かすの…気持ちいいじゃないですか」
「そうだろう、日光浴と運動の両方ができる。ナイスだろう」
「何か違うような気もするけど…ま、そんな感じですね」

 日がだいぶ傾いた頃、奈緒子はふっと目を開けた。
「あ…れ?あ、寝ちゃったんだ…」
 木の下で横たわっていた奈緒子の体には、上田の着ていた上着がかけられていた。ぼんやり辺りを見渡すと、上田と矢部と菊池の姿を発見した。
「まだやってるんだ…バレーボール」
 その言葉どおり、三人は少し離れたところではしゃいでいた。
「大丈夫なのか、東大は?」
 元気にボールを打つ菊池は、もうすっかり大丈夫なようだ。ふと、矢部の打ったボールが奈緒子の方に転がってきた。
「あ…」
 それを拾うと、上田が走ってきた。
「よう、YOU、目が覚めたのか」
「ええ、まぁ…」
「じゃぁYOUも参加しろ」
 当然と言った風に、上田はボールを持った奈緒子の手を取ったが…
「いやですよ、もう疲れました。それにおなかも空いたし…」
 その途端、奈緒子のお腹の虫が控えめに鳴った。
「確かに…」
 上田は奈緒子からボールだけ受け取り、矢部たちのもとへと走っていった。見ていると、何か話しているようだった。しばらくしてボールを矢部の手に押し付けると、上田は再び奈緒子のいる木の下まで駆け寄ってきた。
「さ、帰るか。途中で何か食べよう」
「上田さんのおごりですか?」
「どうせYOUは金なんか持ってきてないだろ。いや、持ってないという方が正しいな」
「ええ、ないです。よし、上田さん、お寿司食べましょうよ!」
「お前、人のおごりだからって…」
「あ、焼肉でもいいな…」
 ため息を付く上田をよそに、奈緒子はうっとりした顔で空を見つめた。

後日、上田はがっくりとうなだれる矢部の姿を見つけた。話を聞くと、バレーボール合コンでは力みすぎて、すっかり女の子たちにひかれてしまったと言う。
 そして結局、奈緒子はなぜ自分があのメンバーに加わる事になったのか、最後の最後まで知る事はなかった…






 …ってか、なんでバレーボールなんかしてたんだろ、私。






「球技」って…また難しいお題だなぁ。こんなネタしか思いつかなかったよ、しかも何か短いし(汗)
全然ラブくないし、なんか淋しい。

2004年1月13日完成




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