正直言って、あんまり関わりたくないの





 「 トラブルメーカー 」





「お・いっ!」
 奈緒子は暗い部屋に閉じ込められた状態で、怒鳴った。
「なんだよ…」
 光はどこからも差し込まない、暗い部屋。隣から聞こえたのは、上田の声だった。
「本当に…バカ!」
 怒りが込み上げて、見えない背中を叩いた。
「痛いじゃないか!しかもバカとはなんだ、こんな天才をつかまえておいて…バカって言う方がバカなんだぞ」
 多分顔をしかめながら、上田は立ち上がった。
「うるさい、こんな目にあってるのは、誰のせいだと思ってるんだ!」
「う…」
 上田はまた、体を小さくして縮こまった。

 その日はとても穏やかで、珍しくバイトが一ヶ月続き(クビにならず)、奈緒子は丸々一か月分の給料を貰ってにこやかに池田荘に帰宅した。
「大屋さん、これ、今月分の家賃です」
「どーも、あんたにしては珍しいわね」
「えへへ、バイト代入ったんです」
「そぉ」
 ハルも上機嫌で家賃を受け取って、子供をあやすジャーミー君の方に歩いていった。
「今日はお肉買っちゃおうかな、久しぶりにちゃんと貰えたし…この一ヶ月、平和だったもんなぁ」
 ニコニコと部屋の戸を空けた瞬間、奈緒子の笑顔が凍りついた。
「なんだ、随分上機嫌だな、今日のYOUは」
 上田の声。そして自分の後ろで、平和が崩れ落ちる音を、奈緒子は確かに聞いた。
「終わった…」
「何が終わったんだ?急に不機嫌な顔して…変な奴だな」
 首をかしげる上田を一瞥し、奈緒子はがっくりと膝をつき、大きなため息をついた。
「みじかい平和よ、さようなら…」
 小さく呟き、うなだれた。
「何かあったのか?」
 上田はその様子に本気で心配したのか、奈緒子の傍らに走りよった。
「何かあるのは…これからだろ、上田」
「おぉ、YOUには先読みの能力があるのか?知らなかったな…」
 うなだれたまま唸るように言った奈緒子に、上田は本気で驚いていた。
「いいから、早く話せ」
 奈緒子はすっかり諦めていた。どんなに足掻いても、結局はあの手この手で上田によってどこか辺境に連れて行かれてしまうのだろうと。

 そういう訳で、今日は埼玉の奥地にある寺を訪れた二人だったが、上田が調査を依頼されたと口を滑らせた為、こうして離れにある小さな蔵に閉じ込められてしまったのだった。
「上田!懐中電灯とか持ってきてないのか?」
「…あるっ!」
「早く出せよ!」
 上田のとろさにイライラしつつ、一緒に鞄をあさった。
「お、あった…」
「よし!早くつけろ、点灯!」
「…」
 暗闇の中、上田はペンライト片手に固まっているようだった。
「上田…?どうした?早くつけろよ」
「お、俺とした事が…」
 上田の呟きと、カチッカチッとスイッチを切り換える音が聞こえた。
「上田さん、まさか…」
「電池切れだ」
「来る前に確認しろぉ!あーもう、使えない!」
「何だと!この俺をつかまえて…」
「それはもういいから!他に何かないんですか?マッチとか、ライターとか」
 上田をよそに、奈緒子は勝手に上田の鞄をあさり始めた。何しろ真っ暗なもので、何が入っているのか、さっぱり見当もつかない。
「ない。俺はタバコとかは吸わないからな」
「威張るな!本当に使えないんだから…」
 鞄の中には役に立たなさそうなものばかり入っているようで、この暗闇を消してくれそうな物はないと判断した奈緒子は、腹立ち紛れにその鞄を放り投げた。
「ん?今何を投げた?」
「お前の鞄だ」
「な、なんだと?!」
「役立たず!扉、蹴破れないのか?」
「無茶言うな、とりあえず静かにしよう。そうしたら気になって扉を開けるかもしれない、隙を見て逃げ出そう」
「本当にそう思ってるならそれを小声で言え!」
 奈緒子の言う事も最もだ。その頃蔵の外では、見張りに立っている小坊主が唖然としていた。
「あぁ、疲れた…私、ちょっと向こうで何か使えるものないか探してくるんで、上田さんはここで何か探してください」
「こんなに暗いんじゃ、探しようがないだろう」
「そうでもないですよ、私、だいぶ目が慣れてきましたから」
 まだ目が慣れていない上田は黙り込んで、多分奈緒子がいる方をじっと見つめた。奈緒子には考えがあった。この蔵に閉じ込められる前に、見た物。この蔵は天井が高い…二階建てだ。そして蔵の二階には、窓があるはずだ。
「どこかに二階への階段があるはず…それがあれば」
 足元に気をつけながら、奈緒子は奥へ奥へと足を運んだ。上田はいまだにさっぱり何も見えず、とりあえずしゃがみ込んで手を振り回してみた。
「あたっ?!」
 何かに手がぶつかった。

「YOUといるとろくな目に合わないな」
 澄んだ青空の下、上田はパプリカのハンドルを握りながら口を開いた。
「こっちのセリフです」
「なんだと、今日だって俺の機転で助かったんだぞ」
「何が機転だ、私が二階の窓を開けたから、たまたま助かったんじゃないですか」
 奈緒子が負けじと言い返す。
 どうしてあの蔵から助かったかというと、奈緒子が二階への階段を見つけて窓を開けようとした時、上田は手をぶつけた箱を開けて、中身を確認していた。そこにはあったのは古くなった発煙筒で、それと知らずに点火させてしまった上田は煙に慌てて発煙筒を放り投げたのだ。
 それがたまたま階段の近くで、煙は奈緒子が開けた窓から外に出て、火事だと勘違いして扉をあけた小坊主を上田がなぎ倒して助かったという訳だ。
「俺があれを瞬時に発煙筒だと理解したから…」
「結局事件の謎だって私が解いたんですよ、まるっと」
「違う!あれは俺だってYOUよりずーっと以前に…そう!依頼者から話を聞いた時点で解いていた!」
「だったら来る必要ないじゃないですか。分かってるんですか?上田さん、私たち、三日もあの村にいたんですよ」
 奈緒子にはそれが一番のショックだった。おまけに犯人が電話線を切っていたため、どこにも連絡が出来なかった。
「いいリフレッシュになったじゃないか」
「お前は気楽でいいな、上田…」
 つまり、三日もバイトを無断欠勤してしまったという事実は動かせない。
「YOUは何事も悪く考えすぎなんだよ」
「折角一ヶ月も何事もなく進んだのに、きっと今回のバイトもクビになるんだ…」
 がっくりうなだれる奈緒子を横目に、上田は鼻歌交じりで口を開いた。
「何か言ったか?」
「バイト!きっとクビになってるだろうから、今夜はお詫びにご飯を奢ってください」
「何で俺がYOUに施しをしてやらないといけないんだ。バイトをクビになるのは、YOU自身の問題だろ」
「話…聞いてなかったのか?」
 お前のせいだろ…と奈緒子は突っ込み、二人は自分の住む街に帰っていった。






 どんなに抵抗したって、本当にいつもいつも不思議なくらいトラブルに巻き込まれる。
 こんなの、上田さんと出会う前まではありえなかった。
 きっとあなたが中心人物。そして私も、その中心の枠に囚われてしまったのだ。
 だから、私たち、二人揃ってトラブルメーカーなんですよ。
 磁石の対極同士、くっついてしまって、もっと強い対極を引き寄せようとしてる。
 もう離れられない。
 最悪の、トラブルメーカーコンビ。







最後の6行がイマイチですな。
ただなんとなく思ったので…もうちょっと暗闇を利用していちゃいちゃさせればよかったかな…なんて思ってみたりして…(汗)

2004年1月24日完成




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