じゃぁ、じゃぁもし…





 「 義理のきょうだい 」





 大学での講義を終え、いつも通りにマンションに帰り、郵便受けの中身を確認した時、ダイレクトメールや広告のチラシの他に、可愛らしい封筒が一つあった。
「手紙…?珍しいな」
 筆跡は女性のようだったが、差出人の名前が書かれていない。とりあえず部屋に入り、服を着替える事にした。その封筒はチラシなどと一緒にリビングのテーブルの上に置かれ、上田はシャワーを浴びたりしている内に、その存在を忘れてしまった。
 ──ピンポーン…リビングのソファでまったりとブランデーの入ったグラスを傾けていると、玄関でチャイムが鳴った。こんな遅い時間に何だろうかと、バスローブを羽織って慌ててドアを開けると、そこにいたのは…
「よぉ、上田!」
 アルコールでも入っているのだろうか?頬を少し赤らめ、とろんとした目つきの奈緒子が立っていた。
「YOU…?」
「えへへ、おっじゃましま〜す」
 どうぞも何も言っていないのに、奈緒子は当然のように靴を脱いで部屋に上がった。
「おい、YOU!」
「なんですかぁ?」
「一体今何時だと思ってるんだ?!」
「えーっとぉ…夜の11時ですね」
 フラフラと奈緒子は、自分の手元に目をやって腕時計を確認し、上田に答えた。
「いや、だからそうじゃなくて…」
「今日ですね、新しいバイト先の歓迎会があったんですよぉ」
 パタン…とソファに横たわり、奈緒子はニコニコと上機嫌のようだった。
「だからって、何でうちに来るんだ?」
「新しいバイト先はですね、コンビニなんですけど、今日はいいもの沢山貰っちゃったんです」
「は?」
 上田はすぐに、奈緒子が手にしている大き目の紙袋の存在に気付いた。
「賞味期限が切れたお弁当とか、お菓子とか、本当は廃棄処分しないといけないみたいなんですけど、勿体無いから持って帰っていいよぉって…」
 そっと袋の中を覗いてみると、確かにお弁当やらお菓子の箱やらが大量に入っている。
「だからってこんなに貰ってきたのか?」
「ちょっと貰いすぎちゃったんですよぉ。だから上田にもお裾分けしよぉと思って…」
「俺はYOUみたいに明日食べるものには困っていないが…YOU?」
 続きを言う前に気付いた、奈緒子はすっかり眠りこけている。仕方ないので、上田は紙袋をまるごと冷蔵庫に押し込み、奈緒子を寝室に運ぼうとした。
「うにゃぁぁぅっ!」
 ところが怪しげな声と共に上田の手を振り払うので、諦めてそのままソファに寝かせておく事にした。もちろん、寝室から持ってきた毛布をかけてやる事も忘れない。
「飲み過ぎだ、バカ…」

 肩が何だかスースーして、奈緒子は目が覚めた。
「あにゃ…?」
 頭がズキズキする。床に落ちた毛布を拾い、自分にかけながらふと気付く。見慣れない天井。
「あれ?ここ…上田の部屋?」
 自分がなぜここにいるのか、少しの間把握できず、痛む頭を押さえて考えた。
「う…う〜ん、思い出せない」
 考えている内に無性に喉が渇き、とりあえず流しに向かった。そこに置いてあったグラスを拝借し、水を注いで口に運んぶ。
「ぷは〜、あー…お腹すいた」
 一気に飲み干した後は、当然の如く冷蔵を開ける…そこには先ほど上田が仕舞った紙袋があった。
「あぁ、これ…上田さんにお裾分けしようと思って持って来たんだっけ…」
 一人呟くと、お弁当を一つ取り出し食べる事にしたようだ。
「箸、箸、箸は…あ、あった」
 お弁当と割り箸と水の入ったグラスを持ってリビングに移動すると、奈緒子はテーブルにきちんとそれを置き、席に着いて食べ始めた。
「美味しい、幸せ…ん?」
 お弁当を食べながら、テーブルの上にあるチラシなどに目がいった。
「どっかで特売やってないかな…」
 右手は箸を持ってご飯やおかずを口に運び、左手はチラシをめくって食い入るように見る…そんな器用な事をしていると、一枚の白い封筒が目に入った。四隅に、桃色の可愛らしい花のイラストがプリントされている。
「手紙?」
 宛先は上田次郎となっているが、差出人の名前が書いていない。筆跡が女性の文字のような気がして、奈緒子は不機嫌そうに封を開けた。まだアルコールが残っているらしい。
 中には三枚の、封筒と同じ花のイラストがプリントされた便箋が入っていた。一枚目の一行目を読んで、奈緒子はさらに不機嫌そうに顔をゆがめた。
 ──次郎へ。書き出しはこうだった。だが先を読んでいくに連れ、奈緒子の表情は曇り、罪悪感でいっぱいになった。
「YOU?起きてたのか…」
 突然後ろから上田の声がして、奈緒子は固まった。
「YOU…?あ、それ…勝手に開けたのか?」
 上田は奈緒子の持っている便箋に気付き、慌てて奪うように取った。
「すみません、私…悪酔いしてたみたいで」
「ったく、油断も隙も無い。俺だったから良かったもの…ん?YOU、やけに素直だな」
 いつになく大人しい奈緒子を不審がりながらも、手にした便箋に目を遣って、今度は上田が固まった。上田が目にしたのは、三枚目の便箋だった。
「上田さんって、お姉さんがいらしたんですね」
 奈緒子が小さく言った。三枚目の便箋の終わりには、姉よりと書かれていたのだ。
「…読んだのか、全部?」
「えぇ、まぁ…」
 奈緒子は上田とは目を合わせないようにして、封筒を差し出した。気まずいのだ。上田はそれを受け取ると、部屋の隅にぺたぺたと歩いていき、三枚の便箋と封筒を、ゴミ箱に入れた。
「上田さん?!」
「何だ?」
「よ、読まないんですか?」
「読む意味が無い」
 いつもと違う、どこか投げやりな感じ。
「どうして、ですか?」
「俺に姉はいない…」
 冷たく言い放ち、寝室へと戻ろうとする上田の後姿を見て、奈緒子は口を開いた。
「次郎へ」
 その言葉に、上田は再び固まった。

 奈緒子の口をふさぎたいと思った。どんな道具を使ってでも…
「元気ですか?私は、元気で暮らしています」
 それは多分、今しがたゴミ箱に捨てた便箋に書かれていた事だろう、そう思った。
「沢山の貴方の本を読んで、貴方の活躍を知って、嬉しく思います」
 聞きたくないと思った。自分の耳を両手で塞いでしまおうかとも思った。
「教授になられたんですね、まるで自分の事のように誇らしい気持ちです」
 淡々と話す奈緒子の方に、上田はゆっくりと向き直った。
「中身、覚えたのか?」
「えぇ、まぁ」
「…続けてくれ」
 その上田の言葉に、奈緒子は表情を緩めて、優しい口調で続けた。
「あんなに小さかった男の子が、こんなに大きくなって、立派になって、驚いています」
 奈緒子の言葉を聞きながら、上田は黙って向かい側の席に腰を下ろした。
「駆け落ちという形で私があの家を飛び出してから、もう随分と経ちましたね。お父さんやお母さんは元気でしょうか?いつか、顔を見に行きたいと思ってしまいます」
 上田は黙って、目を閉じ、ただひたすらに奈緒子の言葉に耳を傾けた。
「次郎、貴方はまだ、家を出た私の気持ちに気付けていないかもしれませんね。でもいつか、好きな人が出来れば、貴方もきっと分かってくれると思います」
 奈緒子はついさっき読んだ内容を口にしながら、上田がどんな顔をしているのか少し気になった。
「私は…」
 これは三枚目に書かれていた言葉だ、少し間が開いたので、上田が不思議そうに奈緒子を見遣った。
「YOU…?」
「私は、家族が大好きです。次郎の事も、お父さんとお母さんの事も。けれど私には、それ以上に愛しい人が出来たのです。それくらい愛せる人に、次郎、貴方も会えますように」
 何だか照れくさい文面で、奈緒子は少し早口になって言った。
「これからも、貴方の活躍を影ながら応援しています。姉より」
「それで終わりか?」
「えぇ、終わりです」
 しばし目を合わせたまま黙っていたが、奈緒子はふと立ち上がり、ゴミ箱から封筒と便箋を拾い上げた。
「上田さん、こういうの、きちんと取っておいた方がいいですよ」
 上田にそれを手渡しながら微笑み、奈緒子はソファに横になった。
「寝るのか?」
「えぇ、眠いんで」
「そうか」
 毛布に包まる奈緒子を見ながら、上田はふっと微笑んだ。そして寝室へと向かおうとしたが…
「上田さん」
 奈緒子に呼び止められた。
「何だ?」
「上田さん、お姉さんの事、嫌いなんですか?」
「さぁ、俺にも分からないよ。俺が小さい頃に家を出たからな」
「じゃぁ、姉がいないとか、悲しい事言わないでくださいよ」
「ん…?」
「私、一人っ子だから…お姉さんがいる上田さんが、ちょこっと羨ましいです」
 毛布から顔の上半分だけ出して、奈緒子はそう言った。上田はため息をつきながら奈緒子に近付くと、毛布を引っ張って奈緒子の視界を遮り、頭の位置に唇を当てた。
「そうだな…」

 夜はまだ、もう少しある。アルコールがまだ少しばかり残っている奈緒子は、すぐに眠りに落ちた。
 夢の中で、なぜか見た事も会った事も無い上田の家族と、笑いあっていた。そこにはもちろん上田と、母もいる。奈緒子の隣には、上田よりも年上の、髪の長い綺麗な女性が座っていた。
「こうして見ると、あなた達って姉妹みたいね」
 奈緒子とその女性を見て、誰かが言った。






 もし、俺とYOUが結婚したら、俺の姉は、YOUにとって義理の姉と言う事になるんだな…
 少し不思議だ…







上田に姉がいてよかった…けどどんと来い超常現象にも詳細書かれてないからどう書いたらいいものか…難しいよっ!
しかも何?この出来具合…死!
内容が暗いな(苦笑)

2004年2月9日完成




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