くいずです
きみはみたことがなくて
ぼくはよくみているもの、なーんだ






 「 クイズ 」





 上田は道を歩いていた。少し見下ろす位置に、奈緒子がいる。
「にゃっ?!」
 奈緒子が声をあげた。不意に上田が、大きな手のひらを奈緒子の頭の上に置いたから、驚いたのだろう。
「な…なんですか?」
 頭に載せられた手を払いのけながら、奈緒子は上田を見上げるようにして睨みつけ言った。
「おぉ、すまんすまん、なんとなくな」
「なんとなくって何ですか…全く、びっくりするからやめてください」
「おう」
 手を払われた上田が、反省した様子もないままに答えるので、イライラしながら奈緒子は前を向いて再び歩き出した。上田もその後に続いて歩く。
「YOUは小さいな」
 しばらく歩いたところで、上田がボソッと呟いた。
「私は標準です」
「そぉか?」
「そりゃぁ、上田さんはでかすぎるから、上田さんが見たら皆小さいんでしょうけど」
「それもあるな…だがYOUは標準より小さく見える。胸も背も」
「ほっとけ」
 奈緒子のイライラが募る。今日の上田は何か変だ、いや、いつも変だが…今日は特に変だ。とりあえず歩きつづける。
「にゃっ?!」
 突然、また上田が奈緒子の頭の上に手を置いた。
「び、びっくりするからやめてくださいって…さっき言ったばっかじゃないですか!」
 手を払いのけ、奈緒子は再び上田を睨みつけた。上田は自分の手のひらを見つめ、何か考え事をしている。
「聞いてんのか、上田!」
 上田は奈緒子に怒鳴られ、フッと自分の手のひらと奈緒子を見比べ、手を伸ばした。
「だっ?!」
 奈緒子の頭に、手のひらを置く。
「小さい頭だ。つかめるぞ、ほら」
 おかしそうに笑う上田は、まるで小さな子供のようだ。
「やめろ、馬鹿!馬鹿上田!」
 いい子いい子…と言う感じで頭を撫でる手を、今度は強く振り払い、奈緒子はすたすたと早足で歩き始めた。
「ったく、何なんだあいつ、気持ち悪い。馬鹿上田め!」
 転がっている木の棒を何気に拾い上げ、八つ当たり気味に、辺りの木肌を叩いた。

 一人その場に残された上田は、もう一度手のひらを見つめ、愛しそうに微笑んだ。
「小さい頭だ…」
 クッと声を立て笑い、慌てて奈緒子の後を追った。随分と離れてしまった。
「おい、YOU!どこだ?迷子になるぞ〜」
 ずんずん歩いていくが、なかなか奈緒子の姿は見つからない。森の奥に入ってしまったのだろうか?
「YOU〜?」
 ──パシン。気をはじくような音が上田の耳に届いた。その音の方に目をやると…奈緒子の姿。何をしているのだろうかと、しばし観察してみる。
「ふんだ、上田のバーカ」
 木の棒を持ち、そこらの木を叩いている。上田の悪口を言いながら。上田はそっと、後ろから近付いていく。
「巨根バーカ、眼鏡〜、髭!」
 悪口なのかなんなのか既に分からなくなってきているが、次に木を叩こうとした時、すぐ後ろまで近付いていた上田がその手を掴んだ。
「うにゃ?!」
「何か知らんが、木に八つ当たりは良くないぞ。ん?」
 もう片方の手も掴み、上田は奈緒子の頭の上から囁いた。
「お前のせいだろ、馬鹿上田!」
「馬鹿馬鹿言うなよ、俺は天才だぞ」
「いーや、上田は馬鹿だ!手を離せっつの」
「嫌だね、馬鹿というのをやめないと、離してやらん」
 暴れる奈緒子をの両腕を掴んだまま、上田は奈緒子の頭に自分の顎を置いて言った。
「あっ、頭の上で喋るな!こそばい!」
「あ〜、あ〜、あ〜」
「だー、子供かお前!やめろってば」
「馬鹿発言を撤回しろ〜、したらやめてやる〜、う〜、あ〜」
「にゃーー!」
 微笑ましい事この上ない二人。上田は奈緒子の頭上で、顎を乗せたままクックッと声を立てた。
「やめろー!」
 むずむずくすぐったいのか、奈緒子は顔をしかめ、小さく続けた。
「にゅ〜、撤回、するからやめろ!」
「何を撤回するんだ?ん?」
「だから…上田馬鹿って、言葉、撤回してやるって言ってんですよ」
「よーし、まだ態度がでかいが仕方ない。約束は約束だからな」
 そういって、残念そうに上田は掴んでいた手を離した。
「あー、もう…こそばかった!この…アホ上田!」
 手が離されてすぐに、奈緒子はくるりと振向いて、つかまれている間も決して離す事のなかった木の棒で、上田の頭を軽く叩いた。
「痛いじゃないか!しかもアホと言ったな!」
「馬鹿が駄目ならあとはアホだろ、あとぼけとか間抜けとか、タコとか!」
「タコは食いたいんだろーが、YOUが!」
 べーと舌を出して、奈緒子はまたパタパタと走っていってしまった。

「だから何なんだ、あいつ!巨根め!」
 一人になった奈緒子は、持っていた木の棒をそこら辺に放り投げ、大きく伸びをした。深呼吸もする。
「ふぁぁ、気持ちいい…」
 何度も深呼吸し、奈緒子はぼさぼさになった髪を手櫛で梳いて、チラリと振り返った。
「YOU〜」
 遠くの方から上田の声が聞こえる。
「知〜らないっと」
 さっと脇道にそれて、様子を窺う事にした。
「あれ?どこ行った?」
 上田は奈緒子のすぐ側まで来ると、キョロキョロと辺りを見渡した。その様子がおかしくて、奈緒子は自分の口元に手を当てて、必死で笑うのをこらえた。
「もう少し先か?」
 少しして、上田は先に向かって歩き始めたので、さっきのお返しをしようと、奈緒子はそっと上田の後を追った。後ろからわっ!とでも言って驚かしてやろうと思い、そっと近付く。
 上田がそれに気付いている様子はない。さぁ今だ!
「わっっ!!」
 勢いよく背中を叩いたのだが、上田は立ち止まったまま、ゆっくりと首だけ捻って奈緒子を見た。
「あ、アレ…?」
「YOUの考えてる事くらい、お見通しだ」
「ぬぁっ?!」
 ポンっと頭の上に手を置き、くしゃくしゃと撫でた。
「ははは」
「やめてくださいってば…」
 振り払おうとする奈緒子の手を掴み、上田はさっきと同じような体勢をとった。後ろから両手を掴み、顎を奈緒子の頭の上に乗せると言う体勢だ。
「し、しつこいっ!」
「YOU、クイズだ」
「は?馬鹿な事言ってないで、離せ!」
「クイズに正解したら離してやるよ」
「じゃ…早く出せ!そのクイズを」
 奈緒子との絡みが嬉しいのか、上田は満面に笑みを浮かべている。
「よーし、じゃぁクイズだ」
「早くしてください」
「俺はいつも…というかしょっちゅう見ているが、YOUは…多分一度も見た事がないもの、なんだ」
 奈緒子からは見えないが、上田は何だか楽しそうだ。
「上田さんはしょっちゅう見てて、私が見た事ないもの?何ですか、それ…」
「答えたらクイズにならんだろうが」
「ちっ、つられて言うかと思ったのに…」
「おいっ!」
「うるさい、頭上でわめくな!えーっと…」
 奈緒子が真面目にクイズの答えを考え出したので、上田は黙って少しずつ歩き出した。
「とっ?と…何で移動してるんですか?」
「車のところに移動してるんだよ、ここに立ちっぱなしじゃ寒いだろ」
「そりゃそうですけど…」
 両手を掴まれたままでは歩き辛いし、クイズの答えを考えるのに集中できない。
「ほーら、早くクイズに答えろ〜」
 上田はそれを分かった上でやっているのか…奈緒子の頭上で囁いた。
「ぁにゃっ、こそばいからそれはやめろ!集中できないだろが!」
 上田を怒鳴りつけ、奈緒子は再び真面目に考えだした。
「んーと、上田さんは見た事ある…物だろ、そんで…」
 うんうん唸る奈緒子に、上田はヒントを出そうか迷った。
「おい、YOU…ヒントだそうか?」
「答えを教えろ!」
 上田の言葉に、奈緒子はグリンと無茶な上目つきで怒鳴った。
「だからそれじゃクイズにならんだろうが…」
「じゃ、ヒント教えろ」
 上目つきのままで、奈緒子はボソッと口を開いた。
「その体勢、首痛くないか?」
「上田さんがさせてるんじゃないですか、いいから早くヒント!」
 顔を正面に戻しながら奈緒子がヒントをねだるので、満足そうに微笑み、上田は頭上で囁いた。
「YOUの体の一部だ」
「なっ?!」
 上田には見えないが、きっと奈緒子は真っ赤になってる事だろう。

 そのままの状態で、上田と奈緒子は車のところについた。奈緒子はずっと顔を赤らめて、答える事が出来ないでいた。
 このままじゃ一向に帰れないので、上田は降参の白旗を出すよう促し、やっと二人は家路につく事が出来たのだ。
 上田は途中、何度も奈緒子の頭に手を置いたりして、からかった。
 奈緒子が答えを知ったのは、池田荘の前で上田が奈緒子を降ろした時。耳元で囁かれて奈緒子は顔を膨らませて怒ったという…






 こたえ
 それはきみの、つむじ。







なんて馬鹿なお話なんでしょう(笑)
そこの君!思う存分笑ってくれたまえ!

2004年3月4日完成




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