手の届かないところにあるから、憧れるんだ。





 「 天空の城 」





 道を歩いていて、奈緒子はふと、見上げた。頭上にはどこまでも広がる青空。もくもくした真っ白い、大きな雲。
「YOU、どうした?」
 前を歩いていた上田が、立ち止まったまま空を見上げる奈緒子に気付き、慌てて戻ってきた。
「雲の向こうには、何があるんでしょうねぇ」
 開いた手で空を仰ぎ、奈緒子が呟く。
「雲の向こうにあるもの…?そりゃ、空に決まってるだろうが」
「夢のない事、言わないで下さいよ」
 奈緒子がむきになって怒るので、上田は困ったように首を傾げた。
「他に何があるっていうんだよ」
「知るか、自分で考えろ!」
 フンと、そのまま奈緒子が先に歩き出した。上田はそこに残されたまま、奈緒子が何に怒っているのか分からずに、もう一度首をかしげた。
「なんだ?」

「全く…どうして科学者ってのは、何でもかんでも理論づけようとするんだろ。夢も何も、なくなっちゃうじゃん」
 つまんない奴等…と呟きながら、先を急ぐ。
 途中でまた、ふと空の雲を見つめた。
「すごい雲…」
 こんな風に、澄んだ青空に大きなもくもくした雲が、そこにある。こうゆう雲を見つけると、思い出すのは有名なアニメ映画だ。
「行ってみたいなぁ…」
「どこにだ?」
 空を見上げたまま呟くと、やっと追いついた上田が、真後ろにいて、奈緒子の頭上から声をかけた。
「うわぁっ?!」
「うおぉぅっ?!」
 上田の出現に驚いた声をあげる奈緒子…そしてその驚いた声に驚く上田。
「急に声をかけるな!」
「なんだって言うんだ、さっきから…機嫌が悪いな、YOU」
「ほっといてくださいよ」
「そうも行かないだろう、同じところに向かってるんだから…あ、あの日なのか?」
「違います!セクハラで訴えますよ!」
「そうぴりぴりするなよ」
 とぼけた事を言う上田に、奈緒子はイライラと顔を向けた。どうしてこんなにも苛々するのか…自分でも分からない。
「夢も何もない上田さんには、関係ありません」
「夢?夢なら俺にだってあるぞ」
「へぇ〜どんな?」
 興味なさ気に返事をすると、上田は胸を張って続けた。
「俺の夢はな、世界に物理学者・上田次郎の名を轟かせる事だ!どうだ、凄いだろう」
「へぇ〜〜」
 また興味なさ気な声を出すので、今度は上田がむっとした表情で奈緒子に詰め寄ってきた。
「そーゆうYOUは、どうなんだ?ん?」
「私の夢は、世界が誇る一流マジシャンになる事ですよ…ってか、その夢じゃなくて…」
 話が妙に違う方向に向かっている事に気付き、奈緒子は大きくため息をついた。
「じゃぁどの夢だよ」
 しつこく食い下がる上田を一瞥し、奈緒子はため息をつきながら、空の雲を指差した。
「あの雲の中に、何があると思います?」
 さっきとは少し違う質問を投げかけてみる。返ってくる言葉はきっと、物理学者らしい事だろうけど、小さな期待を胸に秘めて。
「雲の…中?そうだな、物理学的に考えると、雲は空気中の水分が凝結して水滴・氷晶となり、これらが群れ集まって空中を浮遊しているものであるから、酸素と水素と、その他の塵などと答えるのが無難だな」
 まるで授業のように長々と解説する上田を見ながら、奈緒子は深くため息をついた。期待した自分が馬鹿だったと…だが
「だが」
 上田はなおも続けた。
「え?」
「YOUが夢の話をしていたから、ここは夢のある解答をしておこう」
 にやっと、悪戯っ子のような表情を浮かべ、上田は雲を見つめた。
「上田…さん?」
「う〜む、あーゆう、もくもくした雲ならやはり、アレだな」
「あれ?」
 少しドキドキしながら、奈緒子は上田を見つめた。
「万人の夢、ラピュータ島だな」
 パッと、奈緒子の顔に笑みが浮かんだ。
「でしょう?やっぱりそうですよね〜、そしてその島には、お城が建ってるんですよ」
「天空の城か」
「えぇ」
「有名なアニメ映画だな」
「私、あの映画大好きなんです」

 コロコロと子犬のような無邪気な笑顔ではしゃぐ奈緒子を見ながら、上田は微笑みを浮かべた。
「まぁ、実際問題、島が宙に浮くと言うのはありえないが…な」
「それを言ったらミもフタもありませんよ」
「それもそうだ」
 機嫌の直った奈緒子と、上田は並んで歩き始めた。
「でも、本当にあったら、素敵でしょうね」
「ん、何がだ?」
 ふっと奈緒子が口を開いたので、上田の思考回路は少しパニックを起こした。
「今話してたじゃないですか、空に浮かぶお城の話ですよ」
「正確には、浮いているのは城じゃなくて島だぞ」
「似たようなものです」
「全然違うぞ?」
「ちょっと上田さん!」
「なんだ?」
 奈緒子は上田の一歩前で仁王立ちになり、睨み詰めるような目で上田を見ていた。
「喧嘩売ってるんですか?」
「買ってくれるのか?幾らで?」
「買いませんよ…」
 呆れた表情になり、奈緒子は大きなため息をついた。そして、次は微笑む。忙しい奴だな、と…上田も無意識に微笑んだ。
「YOUと話していたら、久々に見たくなったな」
「映画ですか?」
「そうだ」
 上田の言葉を聞いて、奈緒子はビッと指をある方向に差した。
「ん?」
「あそこにビデオレンタルのお店がありますよ」
「そうだな」
「レンタルして、一緒に見ましょうよ」
 奈緒子はレンタルショップを指差したまま、ニコニコと微笑んでいる。
「…ビデオ、か」
「ついでにも色々借りて、今日は上田の家で映画三昧だ!」
 はしゃぐ奈緒子から、上田は空へと視線を移した。
「そうだな、折角だし…」
「やったー!」
 あの雲の中に島が浮かんでいて、その島に城が建っているなら…いつか奈緒子と行ってみたいと、ありえない事を上田は思ってしまった。
「なぁ、YOUは他に、何か見たい映画はあるのか?」
「え?えっと…わかりません」
「わからないって…」
「だって、映画観に行くお金なんてありませんし」
 それもそうか、と、妙に納得して、上田は奈緒子と二人並んで、レンタルショップへと歩き出した。






 有り得ないと分かっていながらも、思いを馳せてしまうのはやっぱり
 それが万人の夢だから。
 叶わないと知っていながら願ってしまうのは、
 自分がちっぽけな存在だとわかっているから。
 心から憧れるのは、それが届かないところにあるから…







最後の五行がオカシイです、変です。
イチから修行しなおしてこーい!
フゥ…まぁ、あれだ。天空の城と言えば、天空の城ラピュタ!これしかないだろ!(笑)

2004年3月6日完成




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