痛いのは…イヤ





 「 ピアス 」





「ねぇ、山田さんもやってみない?」
 バイト先の休憩室で、備え付けのコーヒーをがぶがぶ飲んでいた奈緒子は、後ろから突然声をかけられた。
「え…?」
 声をかけてきたのは、バイト仲間の女性だ。今風の可愛らしい女性で、奈緒子に向かって何かの機械…といっても小さいおもちゃのような物だが、それを向けて立っていた。
「やる…って、何をですか?」
 女性の言っている意味が分からず首をかしげる奈緒子に、彼女は目線の高さを合わせ、耳元の髪の毛をさらりと梳いた。
「は?」
「コレよこれ、ピ・ア・ス」
「ピア…ス?」
 なるほど、よく見ると女性の耳には、小さな天然石が光り輝いている。
「あぁ、ピアスですか。綺麗ですね」
 自分には全く関係ないと、彼女の耳元の石を見ながら答えた。
「ね、山田さんも穴あけて、付けてみない?」
「えっ…?」
「髪の長い人だとね、ちょっとした仕草の時にちらちら見えて、ちょっとそそるんだって。あたしの彼が言ってた」
「はぁ…」
「山田さんは普段耳かくしてるじゃない?だから、ちらっと見えるとドキッとするんじゃない?」
 彼女は、奈緒子の髪の下の方をしゅるんと自分の指に絡めながら、続けた。
「山田さんのカレシも悩殺されちゃうかもよ」
「え゛っ?!」
 突然の、聞きなれない単語に、奈緒子は変な声を上げた。
「ん?」
「か、カレシなんて、いませんし…」
「うっそだぁ〜、私、この間見たよ」
 戸惑う奈緒子に向かって、今度は彼女が声を上げる。
「いや、嘘も何も…って、え?見たって…何を、ですか?」
「先週…かな?眼鏡かけた背の高い男の人と、歩いてたよね、山田さん」
「あぁ、上田か…あれはカレシとかそう言うんじゃないですよ」
「じゃぁ何?」
「いわば…下僕?」
「あはは、山田さんって面白いね。あ、もしかして秘密の関係?結構年離れてるように見えたから…不倫とか?」
 彼女があんまり面白がって聞いてくるので、奈緒子は返答に困る。
「や、だからそういう関係じゃなくて…」
「まぁいいや、これ、あげる」
 奈緒子が困っているのを察し、彼女は突然話題を切り上げるかのように、奈緒子の手に、先ほどのおもちゃのような物を渡した。
「は?」
「それ、ピアッサー。昨日買ったんだけど、あたしのカレシも買ってきてくれて…ダブっちゃったから、それ要らないんだ」
「えっ、ただで貰っちゃっていいんですか?」
「うん、それで例の秘密の彼、悩殺しちゃいなよ」
 呆気にとられる奈緒子をヨソに、彼女は可愛いウインクを飛ばして休憩室を後にした。
「だ、だから違うって言ってるのに…」

 池田荘の自分の部屋で、奈緒子はコートのポケットに手を入れた。取り出したのは、今日のバイトで、同じバイト仲間の女性がくれたピアッサーなるシロモノ。
「ピアッサー…か、何に使うんだろう?」
 ひっくり返すと説明書きがされている。どうやらホチキスのように、耳をガチャンと挟むらしい。すると穴があいて、備え付けのピアスがその穴に勝手に装着される…らしい。
「ピアス、かぁ…」
 やはり奈緒子も年頃の女性、お洒落が気になるものだ。
「耳に穴あけるんだよねぇ、痛くないのかな?」
「何が痛いって?」
「だから耳に穴を…え?」
 部屋には自分しかいないと思っていた。なのに今、頭上から聞こえた声。しかも聞き覚えのある声だ。
「よぉ、YOU。元気か?」
 見上げると、上田が立っていた。
「上田…また勝手に入ったのか…って、いつからそこに?!」
 あきれ返りながらも首をひねる。帰ってきた時はいなかったはず…
「今来たところだ」
「チャイムぐらい鳴らせっつの」
 はぁ…とため息をつくと、奈緒子は上田をチラリと見た。
「何だ?」
 バイト仲間に言われた事を思い出す。ちらりと見えるピアスで、悩殺…
「うひぁっ」
 上田を悩殺するのか?と一瞬思ってしまい、顔を赤らめ、奇声を発しながらブンブンと首を振った。
「な、なんだよ突然…変な奴だな」
「う、うるさいっ!上田さんに言われたくありません!」
 お前ほど変な奴はいないと続けながら、奈緒子は立ち上がって流しの方に向かった。
「YOU、立ったついでにお茶を入れてくれよ」
「イヤです」
「なに怒ってるんだ?」
 奈緒子の様子がおかしいと感じたのか、上田はいつの間にか、奈緒子の後ろに立っていた。
「な、何でもないですよ」
「そうか?あ、お茶、俺いれるから」
 イヤと言ったのにも関らず急須を握っていた奈緒子の手から、上田は自然にそれを取り、お茶を入れ始めた。
 奈緒子はその様子をただじっと見つめる。その内、その視線は上田の耳へ…
「うおぉぅ?!」
 上田が奇声を発した。なぜかと言うと、何を思ったのか、突然奈緒子が上田の耳に手を伸ばしたから。
「なっ、何するんだよ!危うく急須を落とすとこだった」
 上田は赤い顔で、空いた手で胸の辺りを押さえながら、もう片方の手はしっかりと急須を握っていた。
「あ、すみません、つい…」
「ついってなんだよ、ついって…」

 お茶を入れ終え、二つの湯飲みを持って上田は小さなテーブルの置かれた部屋に戻り、腰を下ろした。テクテクと奈緒子も後に続き、上田の向かいに座る。
「ん?何だこれ…」
 上田が見つけたのは、先ほどのピアッサーだ。
「あ、それは…」
「なんだ、YOU…耳に穴あけるのか?」
「いえ、バイト先の人がくれたんです。何だか一個ダブったからとかで」
「ふぅ〜ん」
 ふと、奈緒子は思った。
「ねぇ上田さん」
「ん?」
 上田は手にしたピアッサーを、物珍しそうにじっと見ている。
「私、似合うと思いますか?」
「何がだ?」
「ピアス」
 ふっと顔を上げる上田。それに合わせるように、奈緒子は自分の髪を、耳が見えるように梳いた。
 その刹那。上田は顔をなぜかボッと赤らめ、さっと奈緒子から目を逸らした。
「上田さん?」
 上田の手からピアッサーが落ち、空いた手で口元を押さえている。
「何やってんですか?顔、真っ赤ですけど…?」
「な、何でもない」
 奈緒子は不思議そうに首を傾げ、テーブルの上に落ちたピアッサーに手を伸ばした。
「やっぱり上田さんの方が変ですね」
 クスッと声を立てて笑い、ピアッサーを箱から取り出した。
「ん?YOU…何、してるんだ?」
 上田は赤い顔をしたままで、奈緒子の指の動きを追った。
「え?あぁ、折角だからやってみようかと思って…」
 奈緒子がそう言った途端、上田が無言で奈緒子の手からそれを奪い取った。
「ちょっ、何するんですか、上田さん!」
「駄目だ」
「は?」
「ゆ、YOUは、お母さんから貰った体に傷をつけるのか?絶対駄目だ!」
「あぁ…それもそうですね…って、何で上田さんがそんなぴりぴりしてんですか?」
 奈緒子はまたも首をかしげた。
「き、気にするな」
「気になりますよ、変な上田さん。どうでもいいからソレ、返してくださいよ」
「使うなよ?」
「分かったから早く」
「ほらよ…」
 上田の手からそれを取り戻すと、奈緒子は丁寧に箱に戻した。
「そっか…」
「どうした?」
「ピアス、穴をあけるって事は、体を傷つけるって事ですもんね」
 上田の言った言葉を思い返し、箱に戻したピアッサーを、奈緒子はテーブルの上に置いた。
「そうだぞ、最近の奴らはむやみに体を傷つけ過ぎてる!YOUは貧しくたって、そんな真似は絶対するなよ。そんな事をしたら、お母さんに会わせる顔が無くなるっ」
「何で上田さんの顔がなくなるんですか、っつか、お母さんって言うな」
 ため息をつきながら、奈緒子は名残惜しそうに、また耳元の髪を梳いた。さっきと同じように、上田の顔が赤くなる。
 そして、気付いた。上田が顔を赤くする理由。
「そ、それにYOUはどうせ、耳、髪で見えないだろ。あけたって意味ないぞ」
 もしかして、この仕草…?
「あけませんよ。よく考えたら私、痛いの嫌いですから」
 小さく息をつきながら、奈緒子は上田の顔を見た。赤い顔…
「そうか…」
「あ〜ぁ、でもそしたらコレ、どうしようかな…上田さん、買いません?500円で」
「おいっ、ただで貰った物を人に売りつける気か?!」
「えへへへ」






 そっか…
 痛い思いして耳に穴あけてピアスつけなくても、私には出来るんだ。
 上田さんを悩殺する事。







変な文章だな…あぁ、自己嫌悪(苦笑)
あんまりラブくもないし。
あぁ、それよりピアスって、私も穴あけてないし興味ないから、ピアッサーの知識間違ってるかも。
そこらへんは気にしないでくださいませ…

2004年3月11日完成




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