何かで誰かが言っていた
秘密のない間柄に、愛は生まれないと。
なら俺は…






 「 秘密 」





 ──キュッ…キュッ。太めのマジックで、カレンダーの今日の日付のところを、バツ印でつぶした。
「あと二日…か」
 二日後のところには、赤いマジックで日付が丸く囲まれている。それを見ながら、上田は小さく呟いた。
「さて、何て言って連れて行くかな…」
 腕を組み、何かを考え込む。上田は一ヶ月前から、とある計画の為に色々と準備をしていた。チラリと壁にかけてあるスーツに目をやる。
「こっちの準備は万端だ」
 早まる鼓動を落ち着かせるために、何度か深呼吸し、息を整えた。

 チラリ…と、奈緒子は部屋の壁にかかっている、商店街で貰ってきたカレンダーに目を遣った。
「あと二日…なんだ」
 カレンダーの三日後のところには、鉛筆で小さく印が書かれている。印と言っても、本当に小さな、トランプのスペードマークが一つだけなのだが。
「…どうしよっかな、なんか、気が重い」
 小さなテーブルに突っ伏したまま、カレンダーを眺める。小さく息をついてから目を閉じて、昔の事に思いを巡らした。
 偉大なマジシャンだった父と、優しい母と三人で暮らしていた幸せだったあの頃…奈緒子はそのまま、眠ってしまった。
 翌朝、目を覚ました奈緒子は現状を理解するのに数秒かかった。
「あれ?あぁ…あのまま寝ちゃったんだ…」
 目をこすりながら、再びカレンダーに目を遣る。
「あーぁ、もう明日じゃん…」
 フラフラと立ち上がり、部屋の片隅に置いてあった籐の鞄から財布を取り出した。中身を確認する。
「えっと…」
 五百円玉が一枚、百円玉が二枚、五十円玉はなくて十円玉が四枚、そして五円玉と一円玉がそれぞれ一枚…合計746円。お札は一枚もない。
「絶対無理だ…」
 746円、それが今の奈緒子の、全財産。先週までやっていたバイトさえクビにならなければ、こんなにも思い悩む事はなかったはずなのにと、奈緒子はまたも息をついた。
 とりあえず顔を洗い、服を着替えて街へと繰り出した。新しい仕事を見つけないと、また家賃を滞納する事になる…大屋のハルにイヤミを言われるのは沢山だと、必死になってバイト先を探した。
 だがどこも奈緒子を雇ってはくれず、立ち寄った小さな公園のベンチで、奈緒子は肩を落としていた。
「今年はもう無理だなぁ…」
 ボソリと呟く。日が暮れてきたので、腕に目を遣った。母がくれた腕時計…もうすぐ七時半になる。
「帰って電話しなきゃ…」
 うなだれたまま呟き、奈緒子はなるべく時間をかけて、池田荘まで歩いて帰った。

「お゛い゛っ!」
 池田荘の自分の部屋の戸を開けての、奈緒子の第一声がコレだ。
「よぉ、おかえり。遅かったじゃないか」
「上田…」
 一層肩をうなだれて、奈緒子はドサッと座り込んだ。
「YOU、お茶でも飲むか?随分疲れてるみたいじゃないか」
 そんな奈緒子の様子を見て、上田は慌てて急須を掴んで立ち上がった。
「上田、御茶請けも」
「そんなのはYOUの家にはないだろ」
「ちっ、使えない奴め…」
 不機嫌そうな、そしてどこか淋しそうな奈緒子を横目に、お茶を入れ、上田は小さなテーブルに戻った。
「ほら」
「どうも…」
 奈緒子は目の前に置かれた湯飲みを無造作に掴むと、口に運んだ。コクンとお茶を飲む。それから顔を上げ、改めて上田を見た。
「どうした?」
 まじまじと上田は奈緒子に見られ、すこしドギマギしながら見返した。
「上田さん、その格好…」
「んん?」
 上田はいつものベストではなく、きちっとしたスーツを着用していた。
「似合わないですね…結婚式か何かでもあったんですか?」
「いや、違う」
 ネクタイを直しながら答える上田に、奈緒子は首をかしげた。
「何もないのにそんな格好で…あ、これから何かあるんですね。じゃぁさっさと出てけ」
 急に笑顔になって、玄関の方へと手をビシッと向けられたので、つい苦笑いを浮かべる。
「あぁ、まぁ、そうだな。これから用事がある事には違いないが、急ぐ程の事じゃない。ところでYOU、あのカレンダーの明日の日付のところに、スペードのマークがあるが…何かあるのか?」
「え?明日…いえ、なんでもないんです。いや、それより早く出てってくださいよ、これから寝るんですから」
「まだ8時だぞ、随分早い時間に寝るんだな」
「一日歩き回って疲れてるんですよ」
「またバイト、クビになったのか?」
「う゛…」
 言葉に詰まる奈緒子を見て、上田はまたも笑みを浮かべた。
「何笑ってんですか、性格悪いですよ!」
「いや、ちょっとおかしくてな…」
 クククと声を立てながら笑う上田に、奈緒子は手近にあったポケットティッシュを掴んで投げつけた。
「笑うな!」
「うおぉっ」
 ポケットティッシュはうまい具合に上田の顔面にヒットしたが、大した威力はない。
「くっ…七五三みたいだぞ!そのスーツ、全然似合ってない!」
 上田にダメージを与える事が出来なかったので、精神的ダメージを与える事に変更したらしい。だが上田には効かない、未だにクックと笑っている。
「それより、YOU…俺はな、これから用事があって長野まで行くんだが」
「え?!な、何の用事ですか!あ、まさかお母さんに…」
「まぁ、寄ろうとは思ってる。そこでだ、YOU…もし良かったら乗っていくか?お母様にはもう随分会ってないだろう?」
「そ、そりゃぁ、まぁ…あ、お母さんって言うなっ!」
 奈緒子は再びポケットティッシュを投げつけた、効かないと分かっていながら。
「まぁそう言うな、知らない仲じゃないんだし…で、どうする?」
 ナイスキャッチしたポケットティッシュをテーブルに置き、上田は改めて尋ねる。奈緒子は少し悩んでいるようだった。
「これから…って言ってましたよね?」
「あぁ、今は8時だから、着くのは早くても10時半くらいになるだろうな」
「何でそんな時間に…」
「なるべく早く行きたくてな」
「長野のどこら辺に用があるんです?」
 こう聞いてくるからには、恐らく一緒に行く方向で心は決まっているのだろう。上田は心の中でガッツポーズを決めた。
「それはYOUには秘密だ、まだな」
 にやりと笑む上田に、奈緒子は首を傾げ、自身の髪の毛を指に絡めた。
「…帰りも、一緒に乗せてきてもらますか?」
「あぁ。じゃ、行くんだな?」
 奈緒子はそのまま黙ってコクンと頷いた。

「ん〜んん、ん〜♪」
 道中、車の中で上田は、鼻歌まじりにハンドルを握り、なんだか機嫌が良さそうだった。
「YOU、疲れてるんだったな。着いたら起こすから、寝ててもいいぞ」
 そんな上田の隣で、こっくりこっくり頭を揺らしていた奈緒子に、上田が声をかけた。
「え?あ、そうですか?じゃぁ、ちょっと休ませてもらいますね」
 目をガシガシとこすってから、奈緒子は少し斜めになり、目を閉じた。すると、どこから出してきたのか、上田は奈緒子にひざ掛けをかけた。
「あ、すいません」
「気にするな、二時間半はかかるからな…風邪ひかないようにしないとな」
 はははと続けて笑う上田を見て、奈緒子は何だか不思議な気持ちだった。改めて目を閉じ、寝体勢に入る。
 …上田が妙に優しい。変な違和感を感じつつ、奈緒子は眠りに落ちていく。
「おい、YOU、着いたぞ」
 起こされて目を開けると、真っ暗闇の中に、家の明かりがぽつぽつと見えた。
「ん…今、何時ですか?」
 寝たりないとでも言うように大きな欠伸をしながら尋ねると、上田は奈緒子の腕を掴んだ。
「なっ?!」
「11時…予定より少し遅れたな」
 驚く奈緒子をよそに、掴んでいた手を離す。どうやら、奈緒子がしている腕時計を見るための行為だったらしい。
「そ、そうですか…」
 腕を掴まれた…その行為のせいか、奈緒子は急に胸がドキドキして、緊張し始めた。
「どうした?降りないのか?」
「お、降りますよ」
 二人並んで、山田家に向かう。玄関の前には里見が立っている。
「お母さん」
 奈緒子の声に笑みを向け、上田に会釈する里見。上田も同様に会釈した。
「上田先生、お疲れでしょう?どうぞ休んでいってくださいな」
「あ、お母さん、いいのよ。上田さん、この後用があるみたいだから…」
「助かります、じゃ、お邪魔します」
 奈緒子の言葉を遮るように、上田は靴を脱いで家に上がった。むっとする奈緒子だったが、上田と里見がアイコンタクトを取っているのには気付かなかった。
「奈緒子、お風呂沸いてるわよ。それからちょっと遅くなったけど、お夕飯食べなさい。奈緒子の好きなものばかり作ったから」
「え?あ、うん…あれ?お母さん、どうして私が帰ってくるって分かったの?」
 私、連絡はしてないよ?と続ける奈緒子に、里見はただ黙って微笑みを向けた。
「お母さん?」
「それはいいから、お風呂、早く入ってらっしゃい」
「あ、うん…」
 背中を押され、奈緒子は廊下を奥へと進んだ。
「あ、上田が電話でもしたのかな?」
 風呂場へと向かう途中、奈緒子はボソリと呟いた。

「上田先生、今日は、奈緒子を連れてきてくださって、ありがとうございました」
「いえいえ、これは自分の為でもありますから」
 居間で、上田は里見に頭を下げられ、照れくさそうにはにかんだ。
「そうですか?でも先生にはいつもいつも、お世話になってばかりで…ささ、どうぞ」
 目の前に手向けられたのは、よく冷えた日本酒。よい香りがする…
「あ、申し訳ない。飲みすぎて明日に残るのも困りますので…」
 またの機会にと丁重に断る上田に、里見は何か感じとったようだ。その後、風呂から上がった奈緒子と三人で遅い夕餉となり、その日は過ぎて行った。
 翌朝、上田は誰よりも早く起き、昨日着ていたスーツをより一層きちっと身に付けた。
「YOU、おいYOU、起きろ!」
「ん?うぅぁ…にゅぅぅ…」
 いまだ寝ぼけ眼の奈緒子を無理やり起こし、次郎号に乗せてどこかへ向かう。
「あ、あれ?どこ向かってるんですか?私…」
 やっと目を覚ました奈緒子は驚愕する。
「まぁまぁ、すぐ付くから」
 次郎号はそのまま、高台の方へと走っていく。
「上田さん…まさか…」
 目を大きく見開き、奈緒子は上田を見つめる。高台の、緑の多い場所に着くと、上田は黙って車を降り、奈緒子にも降りるよう手を動かして促した。
 ──ジャリ…砂利敷きの道を、二人は黙ったまま歩いていく。
「あの…上田さん…」
「何だ?」
 ──ジャリ、ジャリ…奈緒子が口を開き、上田が答える。
「いえ、何でもありません」
「そうか」
 ──ジャリ、ジャリ…上田が足を止めた。
「あー、ん、ん」
 そこで上田は、咳払いをしたり喉を鳴らしたりして、チラリと奈緒子に目を遣った。そのまま、奈緒子の視線を追う。
 そこには、黒い、四角い石…
「ゆ…YOU…」
 その黒い石には五つの漢字が連ねられている。
「…上田さん、知ってたんですか?」
「ん?」
 真っ直ぐにその漢字を見つめる奈緒子。
「今日が、私の」
「YOU」
 奈緒子の言葉を遮りながら、上田は奈緒子の肩を掴み、自分の方に向かせた。
「上田さん?」
「YOU…一度しか言わないから、よく聞け」
 心臓がバクバク鳴っている、声が少し震える。奈緒子の大きな瞳の中に、自分の顔が映っているのが見える。
「YOU、いや…奈緒子」
 奈緒子の肩が、小さくビクッと震えた。
「…お、俺はお前を、愛してる。結婚しよう」
 肩から手を離したかと思うと、奈緒子の腕を掴み、その手のひらの上に、小さな箱を落とした。
「上田さん…」
 箱を開けると、そこには朝日にキラリと光る、プラチナのリング。






 ────愛してる
 この言葉を、伝えたかった。
 今日は君のお父さんの命日だから、その墓前で君に。
 今日からは、君の秘密も含めて全部、愛していくよ。
 だから君も…







長っ…
そして最後が変だ!もうお題とはかけ離れてる、支離滅裂だー!!
あぁ自己嫌悪(苦笑)
最初の一言と最後の五行がかみ合ってない(いつもだけど)
なんなんだろう、ホント、もう…
かけない時に無理して書いちゃぁいけませんな。ご容赦くださいませ。

2004年3月31日完成




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