引き出しの奥にしまわれた、一枚の写真。若い男女が写っている。
 手前には、背の高い若い男性。
 奥には男性より少し年上の女性。長い黒髪、白い肌。ピンクのワンピース。少し恥ずかしそうな微笑みが、とても涼しげに見える。



─── 最近、少しだけれど、生きている事が楽しく思えるようになったんだ。なんというか、自分に対して自信を持てるようになってきたんだよ。
 少し前までは、いつも小さな事に怯えていたのに。それを他人に悟られないように必死で隠していたのに。
 上手く言えないけれど、なんとなく自分は少し成長したのかなぁって思える。

 前に紹介したあの貧…いや、スレンダーな女性とは最近もたまに会っているんだ。いや、誤解しないで。よく事件に協力してもらっているだけだから。
 前は随分と酷い紹介をしたような気がするけれど、一緒に色々な事件を解決していく内にちょっとだけ…見方がかわったんだ。彼女は俺の助手としては意外と優秀かも知れない。
 もし、彼女が俺の研究をずっと手伝いたいと言い出したら、それはそれで良いかなぁとも思う。知性と言う点では少し、いやかなり劣っているかもしれないけれど、彼女と一緒にいると安心するんだ。自分でも何に安心しているのかはわからないけれど。
 うん…きっと、彼女のダメなところを見すぎて、そして俺のダメなところを見られすぎてしまったからなんだろうな。

 超常現象らしきものに驚いたり、気絶してしまったところを何度となく見られてしまった。
 一応、俺は大学教授だから、まわりの人間は多少は表面上、気を遣ってくれるんだけれど…あいつはもう本当に無礼な奴なんだ。こっちが気にしている事をズバズバ遠慮なく言ってくる。
 そのクセ、たまにこっちがあいつの貧…スレンダーな体の事をからかってやったら、すぐに文句を言ってくるんだ。

 事件に巻き込まれてはいけないからと思って注意してやった時も、彼女は俺を凄く怒る。
 いつだって一生懸命に、俺に向かってくだらない文句を言ってくるんだよ。お互いに弱いところをさらけ出してしまって、つまらない口げんかもやりつくしてしまったから、もう…格好つける事なんか無くなってしまったような気がする。

 彼女は、少し俺に似ている。
 多分、彼女も親友と呼べる友達は少なかったんだろう。彼女は自分をさらけ出せる俺に甘えている、そう俺は思っていた。だけどそうじゃない。多分、それは俺の方なんだ。
 いつからなんだろう。俺は彼女に、ただ単に事件を解明して欲しかっただけのはずなのに…

 わかってるだろう…?

 俺はずっと、貴女を取り戻す事の出来る誰かを探していた…だから自称霊能力者を集めた。貴女を助けるのに必要な何かを彼らから得る為に。
 だから出逢った手品師の小娘を助手にした。
 貴女を取り囲む全ての状況を、嘘偽りだと否定してもらう為に。だから多くの奇妙な事件の解明に自ら進んで身をのりだした。
 その経験が、必ず貴女を取り戻す事に繋がると思ったから。
 だから、貴女の事は一切書かなかったけれど本も出版した。テレビにも出演した。きっとどこかで俺の事を見てくれると…きっと思い出してくれると思ったから。
 母の泉、から始まって…そうだなぁ、ざっと十数の奇妙な事件を彼女と共に解決してきた。俺もだいぶインチキ霊能力者の使うトリックに詳しくなったよ。
 物理的なトリックなら、俺はきっと解明できる。
 心理的なトリックなら、彼女がきっと解明してくれる。

 だから、ね…そろそろ迎えに行くよ。

 きっときっと、貴女の真実の心を取り戻してみせるから…
 そして貴女にも、彼女を紹介したいんだ。少しびっくりするかもしれない…彼女に会えば、俺が彼女の事を気にするようになったもう一つの理由に、貴女は気付いてくれるかもしれないね。

 彼女にはまだ、俺が貴女の事件との関連性を確かめる為に今まで事件に巻き込んでいた事は話していない。
 彼女は今まで、黒門島という彼女の母親の出身地に関する因縁に心を囚われていたんだ。でもこれは何とかなりつつあるから、そろそろ俺の真意を彼女に話すつもりだ。
 彼女を利用しようとしていた事は謝らないとね。
 もし俺の事を彼女が許してくれたなら、すぐに貴女の元に二人で駆けつけるよ。今の俺には貴女がいる場所は解らないけれど…彼女と一緒なら、きっと何とかなる。
 この世の中には超常現象とか、そんな不思議な事なんて何もない。全ては科学で解明できる。だけどもし、本当に科学で測る事の出来ないものがあるとすれば…
 それは人の意志の力だ。それは出会うべき人と人とを何よりも強い力で結びつけてくれる。
 俺はそう信じている。

 迎えに行くよ、彼女と二人で… ───



 引き出しの奥にしまわれた、一枚の写真。若い男女が写っている。
 手前には、背の高い若い男性。
 奥には男性より少し年上の女性。長い黒髪、白い肌。ピンクのワンピース。少し恥ずかしそうな微笑みが、誰かに似ているような…
 写真の裏。
「19××年。 公園にて。 弟、次郎 姉、直子 」





 2004年夏公開 TRICKウエヤマあんそろG(仮) nkgw_A氏執筆作品  加筆 射障 斎


TRICK FANTASY STORY - SECOND
黄昏の女神


 長編予定小説、執筆及び公開予告。
 出来れば年内に、開始したい。


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