が落ちる前に 」



 まあるい黄色いお月様。
 幼い頃に、あそこには雪をまとったような白いうさぎがいて餅をついているんだよと、父が教えてくれた。
 あの頃は、まだ父は私の隣で笑っていた…


「お餅が食べたい」
 唐突な奈緒子の言葉に、上田はどう答えていいのか首をひねったまま固まっていた。
「上田さん?」
「あ、ああ、すまん」
「何謝ってんですか、変なの。あ、変なのは元からか、えへへへ」
 ぺちん…と、笑う奈緒子の額を上田が弱弱しく叩いたが、あまり効果はなかったようだ。
「痛くないですよーだ」
 これは俺のやる事じゃない、いつもは馴染みの刑事が奈緒子にしていることだ、うまく叩けないのは仕方がないじゃないかと不服そうに、そのまま髪の毛を一房掴んだ。
「うにゃっ?!」
「猫か君は」
「余計なお世話ですよ」
 わざとらしくニャーッと威嚇する奈緒子を見て、つい頬が緩む。
「で、なんで餅なんだ?」
「は?」
 掴んだままの髪の毛を、するりと手のひらの中で滑らせて、離す。
「餅を食べたいって言ったじゃないか」
「あぁ…」
 不意に、奈緒子の表情が緩んだ。

 奈緒子はただ黙って、微笑んだまま立っていた。
「YOU?」
「あ、すみません…ちょっと物思いに耽ってました」
「物思い?」
 呼ばれて、ハッとしたように顔を上げた奈緒子の瞳が、濡れているような気がした。
「昔、父が教えてくれたんです。お月見の度に、真っ白な…お団子をお土産に買ってきて」
「おとうさんが?」
 あぁ…と、納得せざるを得ない。上田はよく知っていた、奈緒子が、父親の事になると豹変するのを。時には感情的に、時には寂しげに。
「父が買ってくるのは、ゆめうさぎって名前のお店のお団子なんです」
「ゆめうさぎ?米の銘柄みたいだな」
「ふふ、本当ですね」
 まっしろい、ほんのり甘いお団子だったと奈緒子は笑う。
「でも聞いた事のない名前だな」
「ええ…私も、お月見の晩にしか食べた事がなかったですし、もしかしたら記憶違いかもしれませんけど」

「探してやろうか?」
 唐突に、上田が口を開いた。
「何を出ですか?」
「ゆめうさぎ、団子屋だよ」
「いいですよ、別に。期待しちゃうし」
「期待しろよ。この俺の人脈にかかれば見つけられないものなんてないぞ」
 そっと手を伸ばし、奈緒子の髪を静かに撫でて。
「凄い自信ですね…でも、本当にいいです」
 思い出は思い出だからこそ、美しく残るものだから。切なげに微笑む奈緒子は、かぐや姫のようだ…と、大層な人物を奈緒子に当てはめてしまい、上田は無言で苦笑する。
「何笑ってんですか、気持ち悪いなぁ」
「探してやるよ、YOUが月に帰る前に」
「は?何で私の帰るところが月なんですか…」
「あ、すまんすまん」
 ついぽろりと口にしてしまい、気恥ずかしそうに自らの髪をくしゃくしゃと掻き乱す。奈緒子はそんな上田を、ただ訝しそうに眺めた。
「どうでもいいんですけど、何でそんなに突っかかってくるんですか?」
「突っかかってなんかないだろ、おとうさんとの美しい思い出に浸るYOUを思ってこそじゃないか」
 いちいち恩着せがましいんだよなぁとぼやく奈緒子声が耳に入ったが、上田は気にする風でもなく、にやりと不適な笑みを浮かべて見せる。
「な、何笑ってんだ!ばーかばーか、上田のばーか!」
 何かを感じ取ったのか、奈緒子は急に態度を変えて一通りけなした後、くるりと踵を返しそっぽ向いてしまった。
 まったく、これのどこがかぐや姫だよ…笑いをこらえ切れずに、手を口元に当ててくくくと声を漏らす上田。
「拗ねるなよ、YOUを笑ってるわけじゃないから」
「どうだかっ」
「ゆめうさぎ、探してやるから」
「それはいいですって言ったじゃないですか」
「でも食いたいんだろう?団子」
 う…と口ごもる。それは否定できないらしい。
「よーし、じゃあ一緒に探すか」
「え?」
 おもむろに、上田は奈緒子の手を取って歩き始めた。
「え?ちょっ、上田さん?」
「ゆめうさぎはいやなんだろ?じゃぁ、別の店でうまい団子出すとこを二人で探せばいい」


 ぴょんぴょんうさぎ、どこへ行く…


 後日、奈緒子は里見に聞いてみた。
「ねえ、昔お父さんがよく買ってきてくれたお団子って、どこのお店だったっけ?」
 里見はクスリと小さく笑って、何も答えはしなかったが、奈緒子にはなんとなくわかった。それは多分、なんとなく覚えていたからだ。
 お月見の晩、里見はいつもふらりとどこかへ行っていた。そうして決まって、二人並んで帰ってくるのだ。その手には、奈緒子の記憶の中のゆめうさぎ。
『奈緒子、知ってる?』
「何?」
『三日夜の餅』
 里見は笑う。それは昔々、結婚の儀式のようなものだったと。
「おっ、お母さん?!」
『上田先生と一緒に食べたらいいわ、奈緒子もね』
「なっ…」
 何かを言い返す前に、早々と電話は切られていた。言えやしないだろう、これでは…先日、結局上田に手を引かれて、東京中の和菓子屋を回っただなんて。


 うさぎにかぐや姫に…とにかく月には色々居るらしい。じゃぁほら、うまい団子屋を探しに行こうか?俺たちも。
 ぼんやりと、空に浮かぶまあるいお月様を見ながら上田は歌うようにつぶやいた。
「月にならうまい団子屋もありそうだ、なんたってうさぎが餅をついてるからな」





 FIN




なんだろう?
どうして折角素敵な感じの題を思いついたというのにこういう感じになるんでしょうか?
そしてなぜにウエヤマだと微妙に長くなるんですか?(笑)
まぁ結局言いたかったのは、月が落ちる前に団子を買いに行こうっていう…
無理やりですね、ええ、わかってます(笑)
意味不明でもこういう話って書くの楽しいんです…(←イイワケ)

2005年9月14日


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