[ 番外編2 ]


 HAPPY?〜乾いた月〜



 幸せはいつの間にか、アタリマエに過ぎていく。
 幸せに気付かずに過ぎていくその日々が、悲しい。
「ケンおにーちゃん」
 小さな楓が、矢部の人差し指を小さな掌で握って笑った。
「かえちゃん、どないしたん?」
「ケンおにーちゃんの手、おっきぃね」
 にこにこ、満面の笑顔。この笑顔を見ると、矢部の心に暖かなぬくもりが広がる。
「かえちゃんの手は、ちっちゃいなぁ」
 自分の人差し指を握る楓の小さな手を、空いている方の手で包み込むと楓はくすぐったそうに笑う。
「かえの手、ケンおにーちゃんの手に食べられちゃった」
 きゃっきゃと、おかしそうに。

「あ痛っ…」
 流しで料理をしていた楓が、短く声を上げた。
「かえちゃん?どないしてん?」
 その声に気付き、矢部が駆け寄る。見ると左手の人差し指を、包丁を離した右手で握り締めていた。
「切ったん?」
「ん…」
 顰めた眉で、顔をこちらに向ける楓。
「見してみ?」
 そっと、右手に自分の右手を添えて開かせる。白い指先に赤い花。
「痛い?」
「ちょっとだけ」
「バイキンはいったらあかんから、消毒な」
 そう言いながら、矢部は楓の人差し指をぱくんと咥えた。
「ひゃっ」
「ん?」
 一瞬驚いた顔になってから、楓はくすぐったそうに笑った。
「指、ケンおにーちゃんに食べられちゃった」
 あ、と思いながら慌てて指を離し、矢部は苦笑い。
「思わずやってもた」

 幸せは、あの日からぐるぐる巡る。
 手放した幸せも、いつか戻ってくるだろうか?
 この手の中に…






TRICK 乾いた月 ヤベカエ HAPPY?



拍手のお礼画面に載せていたミニ小説
ヤベカエを書きたいと思う気持ちに嘘はない。
多分。




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