人物紹介

■山田奈緒子■
 この物語の主人公。売れない奇術師だが、黒門島出身のシャーマン・カミヌーリである母の血が流れている為、ごくたまに不思議な力を使う。(本人は霊能力を全面否定している)
■上田次郎■
 日本科学技術大学の教授。奈緒子と同じく、霊能力を全面否定してはいるが、単純で暗示にかかりやすい。態度がでかいが割りと臆病。
■山田里見■
 奈緒子の母。黒門島出身で、シャーマン・カミヌーリである。文字には不思議な力が宿ると言い、長野で書道教室を開いている。
■矢部謙三■
 警視庁公安の刑事。趣味の悪い柄シャツを難なく着こなす中年男で、ヅラである。権威に弱く、下の者にはめっぽう強い。
■石原達也■
 警視庁公安の刑事。怪しい方言を使い、金髪オールバックで陣内孝則を崇拝し、矢部を兄ぃと慕っている。ごくたまに豹変する。
■菊池愛介■
 警視庁公安の刑事。東大理V、茶髪。あらゆる毒をなめるだけで判定できるという変わった特技を持っている。
■妖術使い■
 昔、黒門島を追われた黒津分家の子孫だと言われている。不思議な力を使い、奈緒子をこちら側に引き込もうとしている



 ★プロローグ★

 口をついて出てくる言葉が、必ずしも実際に思っている事ではないと言う事を、彼は知っているはずだった。
 奈緒子は、悪い夢を見ているのだと思った。ある肌寒い夜、池田荘の前に、そいつが立っていたその時から。
「待っていたよ…」
 低い、唸るような声で。
「お前、妖術使い!」
 大きな目と、剥き出しの歯が描かれた木の面を被り、わらで出来た蓑のようなものをまとっている。声は男の声のようだ。
「久しぶりだね、会いたかったよ…」
 風の唸る音のような声で、妖術使いは奈緒子に一歩近付いた。
「く、来るな!」
 なんとも言えぬ、悪寒のようなものが、奈緒子の背筋を走った。額に、汗が浮かぶ。
「怯えているのか?可愛い子だ。私はお前を迎えに来たんだよ」
 また一歩、奈緒子に近付く。
「私は…私にはそんな義務ないっ!」
「まだそんな事を…本当は分かっているんだろう?自分の力に」
「そんな事、知らない…」
「そうか、そっちに大切な人がいるんだね?だからこっちには来られないと…」
 仮面の奥で、目がぎらぎらと輝いているような気がした。
「なら、それを全部壊してしまおうか」
 妖術使いは続けた。
「なっ、お母さんに何をする気?」
「お母さん?くっくっく…里見には手を出さないよ。彼女にもいずれこっちに来て貰うつもりなのだから。他にいるだろう?お前が最も大切に思う…」
 一瞬の安堵感の後、一気に奈緒子は青ざめた。最も大切だと思うのは、ただ一人…
「上田次郎という男を、消そうか?」
「関係ありませんっ!」
 奈緒子は妖術使いを睨みつけ、一歩前に踏み出し叫んだ。
「あの人は…あの男は関係ないっ!大切なんて思ってもいない…ただの、ただの顔見知りだっ!」
 巻き込んではいけない。その思いから出た言葉だった、本音では決してないはずだった。
 そう叫んだ奈緒子を見つめ、妖術使いは、大きく息をついた。そして、奈緒子の肩越しに何かを見た。仮面の奥の目が、さっき以上にギラリと輝いた。
「そうか…」
 その様子と、誰かの気配を感じ、奈緒子は嫌な予感を振り払うように、後ろを振り返った。
「上…だ、さ…」
 嫌な予感とは、いつも当たるものだ。そこには、上田次郎その人が立っていたのだ。心底傷ついた表情で、立ちすくんでいる。
「あの、上田さん…今のは…」
 凍りついたような、悲しげな表情に、奈緒子は弁解したかった。けれど、妖術使いの前ではそういう訳にもいかず、ただ口をつぐんだ。
「ただの顔見知りなのだろう?」
 すぐ後ろで、妖術使いが奈緒子に囁いた。
「ち…」
 違うと叫びそうになった。誰よりも、何よりも大切な人だと叫びたかった。
「…そうだ。お前がこの男をこ、殺したって、私は絶対にそっちには行かないっ!」
 上田の顔を見れず、顔を背けて奈緒子は怒鳴った。
「じゃあ今日は代わりにこの男を連れて行こう」
「えっ?」
 フッ…───奈緒子が妖術使いに目を向けた時、妖術使いは細い筒のような物を上田に向けていた。上田はその場に、静かに倒れた。
「上田さんっ?!」
「ただの痺れ薬だよ、吹き矢に塗っておいたんだ」
「なっ、何で上田さんをっ…」
 怒りのあまり掴みかかろうとしたが、妖術使いに肩をつかまれ、気が遠くなるような気がした。奈緒子にも針を刺したのだ。
「数時間で目が覚めるだろう。あの男は貰っていくよ、これでお前は、とうとうあの男と敵同士という事になる」
「ありえ…ない、上田さんに、限って…」
「どうだろうかな?お前の言葉によって傷つき、空っぽな状態だ。暗示にもかかりやすそうだしな」
 薄れいく意識の中で、妖術使いの声が響く。
「そ…んな、事…」
「気が変わったら…こちらに来たくなったら、いつでもおいで。歓迎するよ…」
 この言葉を最後に、奈緒子はその場に静かに倒れこんだ。冷たいアスファルトの感触が、いやにリアルだった。

つづく
 
   


■ 戻る ★ 次項へ ■
サイトINDEXに戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送