[ 第106話 ] 「石原さんとは、その…どうなんですか?」 もし、楓が石原とうまくいっているのだとしたら、奈緒子のしている事はおせっかい以外のなにものでもないのだ。 「え?あ、えっと…仲良く、してるよ」 照れくさそうに笑う楓を見て、少し胸が痛む。 「でもなんだか、気恥ずかしくなるんだ〜」 「そうなんですか?」 「うん、石原さんね、昔私がいた養護施設で一緒だったの。小さな時の自分を知ってる人って、なんか不思議で」 「矢部さんも…ですよね?」 「うん…でもケンおにーちゃんは、例外かな。恥ずかしいって言うより、一緒にいると安心するの」 にこっと、笑って続ける。 「でも甘えてちゃ駄目だよね…ケンおにーちゃんにはケンおにーちゃんの、生活があるんだし」 「そんな事…楓さんに甘えられたら、矢部さんだって嬉しいと」 「んーん」 奈緒子の言葉をさえぎるように、楓は首を横に振った。 「いつか…ケンおにーちゃんに好きな人が出来た時、私が甘えてちゃきっと、邪魔になっちゃうから」 きびすを返し、奈緒子に背を向けて楓は言う。その背中が、少し寂しい。 「そう、ですか…」 矢部が好きなのは楓だと、なぜか言えなくて。 「石原さんは、いい人だよ。雰囲気が少し、ケンおにーちゃんに似てるの。だからってわけじゃないけど…」 「わかってますよ」 奈緒子はやっと、静かに微笑んで見せた。楓が、無理してない事をアピールしてるのが自分の所為だと認め…おせっかいは、やめようと。 「石原さんとは、その…デートしたりとか?」 「まだ付き合ってそんなに経ってないから…でもね、ひまわり…昔いた養護施設に連れてってくれたの。懐かしい人にも会えて嬉しかった〜」 「へぇ〜」 デート、と自分で言っておきながら、奈緒子は自分の事をふと思う。上田と私って? 「奈緒子さんは?」 「ふぇっ?!」 唐突に声をかけられ、はっとする。 「奈緒子さんは上田先生と、どんなデートするの?」 「そっ、わっ、私と上田はそういう関係じゃ…」 わてわてと戸惑いながら、あたりをきょろきょろ。 「またまた〜、上田先生の本には、よく一緒に色んなところに行ってるみたいだし」 「や、あの…」 私と上田は、そういう関係なのだろうか…?ドキドキしながら、楓に聞かれるままに今までの事をポツリポツリ話す。 楓は黙って、穏やかに微笑んでいた。 暗くなり、ふと思い出す。そうだ…夜に上田と約束していた。 「楓さん、あの…」 「私、そろそろ帰ろうかな〜。明日朝早いし」 「え?」 上田の研究室のカレンダー。夜の約束を知っていた楓が、にこりと微笑む。 「奈緒子さんはこれから、上田先生と約束してるんでしょ?」 「あ、はい…ごめんなさい、誘っておきながら」 「ううん、楽しんできてね。じゃ」 「じゃ…あ、帰り、気をつけてくださいね」 「ありがとう、じゃあまた」 楓の気遣いに、奈緒子も穏やかに微笑みお返す。上田との約束は正直気乗りしないが、協力してもらった手前すっぽかすわけにも行かない。 楓と別れ、研究室へと急いだ。 「ふふ、なんかいいなぁ、奈緒子さん」 否定しながらも仲のいい奈緒子と上田を見ていると、妙にくすぐったい。羨ましいとすら、時に思う。 「ケンおにーちゃん…」 学校祭。奈緒子に誘われた時から、矢部が来るのはわかっていた。気を利かせてくれたのも…でも、さっき奈緒子に言ったように、甘えてはいけないと自分に言い聞かす。 ただ、屋上で抱き締められた腕が、少し熱くて。 「かーえろっと」 奈緒子はと言うと、息を切らしながら研究室のを戸を開けて中へ。 「よう」 明かりも付けずに、上田は窓際に立っていた。 「…どうも」 「さっきはよくもやってくれたな、割と効いたぞ」 「知りませんよ、上田さんが悪いんでしょ」 ぷいっとそっぽを向いて、目を伏せる。 「いや、まぁ、いい…きてくれてありがとう」 「約束しましたし…」 小さく言いながら、窓際へと近づく。 「はは、お、着替えたのか」 「いつまでもあんなの着てられませんよ」 「もったいな…いや、まあいつものが一番似合ってる、か」 「褒めてるんですか?」 上田の隣に立つと、外が良く見える。 「そのつもりだが」 校庭でキャンプファイヤー、軽やかなメロディーが静かに響く。 「…どうした?」 黙っている奈緒子の顔を、覗き込むように上田が口を開いた。 「別に、どうもしませんけど」 そっと、奈緒子の肩を抱いた。 「上田?」 「綺麗だろ、キャンプファイヤー」 「ええ、まぁ…この手はなんだ?」 振り払おうとしたが、不意に肩を抱く手に力がこもったようなのでやめた。 「ちゃんと言ってなかったと、思ってな」 ちらりと上田の顔を見ると、キャンプファイヤーの炎のせいか、少し赤く見えた。 「今日は最終日だし、生徒たちはもう、ほら…ほとんど外だし」 確かに、学内に残っている人間なんて、ごくわずかだろう。 「邪魔も入らないだろうと思ってな」 「さっきから何が言いたいんですか?」 なんとなく、予想は付くのだが認めたくない。 「YOU…」 上田は、奈緒子の抱いた肩を寄せて耳元で、そっと囁いた。奈緒子の頬も、炎に照らされたように赤く染まっている。 夜は、長い… つづく ひさっびさの更新だったので短めに切ってみました。 後半がなぜかウエヤマになってるし(汗) 早く急展開に持っていくべきだろうか、ここは。 更新が遅くて本当すみません。 2007年7月22日 |
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