[ 第11話 ]


「センセー、白米大盛持ってきましたよ。あと肉等を」
 戻ってきた矢部は両手いっぱいに食材を乗せたお皿をトレイに載せて持ち、隣では楓が落とさないか心配…という表情でそれを見ていた。
「どうも、ま、矢部さんも座って。食べましょう」
 上田に促されて、矢部は席につく。食事はその後、至って静かに進んでいった。持ってきた食材がほとんどなくなった頃、奈緒子が満足げに矢部に笑みを向けた。
「ん…?なんや山田」
「矢部さんが焼肉奢ってくれるなんて言うからあまり期待してなかったんですけど、美味しかったです。ご馳走様です」
「期待してなかったてお前…人聞きの悪い事言うなや」
 矢部はケーキやゼリーを口に含みながら、奈緒子をじろりと睨みつけた。その横で楓がくすくすと笑う。
「奈緒子さん、焼肉好きなんだ〜、私も好きなの」
「あ、楓さんも?やっぱ焼肉は美味しいですよねぇ〜」
 えへへ〜と続ける奈緒子に、優しい笑みを向ける楓。チラリと矢部を見遣る…恐らく話題を変えるために奈緒子に話をふったのだろう。気の利く子やなぁと、ついぞ感心してしまった。
「あー、ほな、腹もふくれた事ですし、そろそろ出ましょうか」
 そして矢部の言葉を口切に、四人は席を立った。支払いを済ませ、アパートへと戻る一行。
「ねぇ、矢部さん」
「あ?なんや?」
 タンッと軽快に足を鳴らして奈緒子が矢部の横に並んだ、必然的に上田が楓と並んで歩く形になる。
「楓さんって、どんな知り合いなんですか?」
 悪びれもせず、奈緒子はしれっと尋ねる。先ほどは直接聞くなんて出来ないと言っていた割りに…と、上田は後ろで息をついた。
「かえちゃんか?ん〜…何て言えばえーんかなぁ」
 突然の問いに、矢部は腕組みして頭をひねる。
「私が小さい頃に、よく遊んでもらっていたんです」
 代りに楓が答え、それに対して頷く矢部。
「へぇ〜、小さい頃って…幾つくらいの時です?」
「私が5・6歳の頃かな。で、ケンおにーちゃんは…26…くらいだったよね?」
「あぁ、そうや」
「二十代の矢部さん…想像できない。あ、その頃からもうソレかぶってたんですか?」
「おまっ…かぶってたとか言うなっ、これは地毛や!」
 奈緒子と矢部の遣り取りを見て、楓がククッと笑った。
「ケンおにーちゃん、奈緒子さんと仲いいんだ」
「いや、あれは仲がいいと言うより、山田が一方的に矢部さんをからかってるだけですよ」
 隣で大きく伸びをしながら上田が言ったので、今度はそちらに目を向ける楓、まじまじと見上げて、一言。、
「上田先生って、背ぇおっきいですねぇ〜…隣に並ぶと、見上げる形になるなんて…何だか新鮮」
 にこっと笑みを向けられて、可愛い…と上田は思った。
「上田…また惚れたのか?」
 ぼそっと小さく言う奈緒子に目を向けて、矢部はしまったという表情を浮かべた。
「いやぁ、椿原さんも女性にしては背が大きい方じゃぁないですか?」
「そうでもないですよ、多分…奈緒子さんと同じくらい、かな」
「ほぉ、とてもそうは見えない…」
 まじまじと奈緒子と楓を見比べる上田を眺めながら、矢部は小さく息をついた。
「何溜息なんかついてるんですか?」
「センセーでもあかん…」
「は?」
 と、四人バラバラに微妙にかみ合わない会話をしていると、いつの間にか楓のアパートの前に着いていた。
「そろそろ業者さんが荷物を持ってきてくれるはずなんですけど…」
「1時ちょっと前か…とりあえず部屋の方の掃除とか先にしといた方えーんやないか?」
「あ、そっか、そうだね」
 パタパタと階段を駆け上がる楓。部屋は3階のようだ、矢部が楓の後に追い階段を上っていく。その後ろ姿を見ながら、奈緒子は上田に声をかけた。
「上田さん、楓さんに惚れたんですか?」
 少し、ほんの少し不機嫌そうに。だが上田はそれには気付かずに、トロンとした目つきで楓の後ろ姿を目で追っている。
「可愛い人じゃないか、椿原さん」
「でも、惚れない方がいいと思いますよ?」
「何でだ?あ、YOU…ヤキモチか?」
 やっと視線を奈緒子に移した上田だったが、まだにやけた表情だ。
「違いますよ、ばーか。そうじゃなくて、楓さんに手を出したら、もれなく矢部さんが付いてくるんじゃないですか?」
「ん?」
 そう言われて、上田は慌てて矢部と楓が入った部屋を見て、また奈緒子に視線を戻した。
「ね?」
「それも…そうだな」
「上田センセー、山田も!何しとんですか、手伝う言うたからには徹底的にお願いしますよぉ?」
 いつまで経っても来ない二人に業を煮やしたのか、矢部が窓から顔を出して声を張り上げた。
「あぁ、はいはい、今行きますよ!YOU、とりあえずその話はまた後でしよう」
「や、別に改めてする話でもないんじゃ…」
 溜息をつく奈緒子をよそに、上田は階段を勢いよく駆け上がっていった。
「惚れやすいやつ…バーカ」
 再び息をついて、奈緒子のその後を追った。部屋の中に入ると、すっかり準備万端な矢部と楓、そしてシャツの袖をまくる上田の姿が目に入った。
「6畳2間、ロフト付き。収納場所も結構あって、これで家賃いくらや?」
 雑巾片手に矢部は口を開いた。
「ロフトってなんですか?」
「YOUはそんな事も知らないのか…あれだよ」
 上田が指差した方向をみて、あぁと納得したふりをする奈緒子。正直、見るのは初めてのようだ。
「家賃は、4万7千円…この辺じゃ安い方だって不動産屋さんが」
「そうやな、新目のアパートやし、綺麗やから…安い方やな。えーとこ見つけたやん」
「私もそう思う〜…えっと、じゃぁ私と奈緒子さんでロフトの拭き掃除するので、ケンおにーちゃんと上田先生は、こっちの二部屋の乾拭きお願いしますね」
 さらっと言って、楓は奈緒子の手を引いた。
「お〜、わかったわ」
 矢部に手を振られながらはしごを使ってロフトに上がると、同じ室内にいるのに、別の場所にいるような気がした。
「ロフトって…部屋の中に二階があるみたいな感じですね」
 ぼそっと言う奈緒子に、楓は笑みを向けながら雑巾を渡した。
「もう一つの場所って感じで、いいですよね」
 その後、部屋の床の乾拭きが終わった頃に、少し遅れて配送会社のトラックが、楓の荷物を運んできた。
 家具などの重たい物は男二人に任せ、楓と奈緒子は食器や衣類を棚にしまう作業をした。一人暮らしだけあって荷物は少ない上に、大人4人ともなれば作業は順調に進んでいく。
「かえちゃん、これ…ベッドマットなんやけど、ロフトあげるん?」
「ううん、ロフトは別のもの置くの。だからベットマットは下…奥の部屋に」
 そうして作業を終えた頃には、四人ともクタクタになって、ベッドの横に置かれたテーブルを囲んで座りこけていた。
「水も出るし、お茶、入れますね…」
 ふと、んーと伸びをしながら立ち上がって楓が言った。
「あぁ、助かるわ、久々に働いて喉がカラカラや」
「奈緒子さんも上田先生も、ありがとうございました」
 やかんに水を入れ、ガス台に置きながら、楓は改めて三人の方に笑顔を向けて礼を述べた。
「いえいえ、他でもない矢部さんの頼みですからね」
「上田、偉そうだぞ!」
 お湯が沸き、楓は丁寧にお茶を入れ、三人の元に戻った。
「湯のみ二つしかないので、奈緒子さんと上田先生、どうぞ。ケンおにーちゃんはマグカップで我慢してね」
「あ、ありがとうございます…」
「どうも、いただきます」
「えーよえーよ、ほなかえちゃんも座って、一服や」
 テーブルの上に湯飲みやマグカップを置き、一度は腰を下ろした楓だったが、すぐに立ち上がってしまった。
「いけない…」
 小さな、呟く声。
「どないしたん?」
「あれ出さなきゃ」
「あれ?」
 奈緒子も興味深そうに首を傾げ、ダンボール箱をあける楓の動きを目で追った。だが、箱から丁寧に取り出されたそれを見て、一瞬息を止めた。
「ちゃんとしなきゃ…怒られちゃう」
 矢部もそれを見て、息を止める。胸が締め付けられるような感覚に、無理やり笑みを浮かべて楓に近付いた。
「それ、どこ置くん?」
「ロフトに棚置いて、その上に置こうと思ってたんだけど…今日のところはこっちの棚に置こうかな」
「そぉか」
 楓は変わらぬ笑顔で、それを持って部屋の隅に置かれた棚の上に、それをそっと乗せた。
「よし、オッケイ」
 満足気に微笑み、テーブルに矢部と戻って腰を下ろした。上田と奈緒子は、まだ驚いた顔をしている。
 無理もない。棚の上に鎮座されたそれは、黒い、二つの位牌だったのだから。


 つづく


微妙極まりありません(笑)
次からまた少し回想はいるかも…しかしなぜだ?上田と奈緒子が出てきてから展開が妙だ(ただの言い分け/笑)
読んでくださっている方、ホント、内容が微妙でごめんなさい。
でも直しませんし、あえてそのまま続けるのがワタクシ射障であります。ご容赦ください(苦笑)
えへ。
2004年4月4日

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