[ 第54話 ] 「ツユだく大盛りで!!にゃっ?だっ」 ドタ… 「ったぁ…」 早朝、奈緒子は寝言と共にベッドから落ちて目覚めた。落ちた時に打った背中をさすりながら、ぼんやりと辺りを見渡す…見慣れない部屋。 「えっと…?あ、矢部さんちか」 ふぁ…と、大きな欠伸をして目元をこする。もう一眠りしようかなぁとベッドに戻り、気付いた。 「あれ?」 ベッドから少し離して置かれたソファの上、ここで寝ているはずの楓の姿が、ない。 「楓さん?」 もう起きたのかな?と首をかしげながら、のたりのたりとベッドを降りてリビングに続くドアをそっと開けた。 そして、固まる。 「…もっかい寝よう」 しばし固まった後、奈緒子は静かに戸を閉めて、ベッドに戻った。 「うわーうわーうわー…」 かと思うと、ベッドの中で小さく呟く。奈緒子がリビングで目にしたのは、静かに眠る、上田と矢部と、楓の姿だった。 「う〜…ん、ん?」 少しして、上田が唸り声を上げながら目を覚ます。 「と…おぉぅっ」 起き上がりかけた上田は、視界にまだ眠っている矢部と楓を捕らえて、慌てて再び横になった。タオルケットで視界を妨げて、目はぱちくりと開いている。 奈緒子同様に、異様な行動。そんな二人の行動に気付きもせずに、矢部と楓は静かな寝息を立てて眠っている。 二人は壁際にいた。矢部は、壁に寄りかかっていたのだろう、そのままずり落ちて眠ってしまったかのような体勢だ。そしてそんな矢部に寄りかかっていたらしい楓も、眠りと共に頭を矢部の膝の上に移してしまったらしい… 何とも仲良さげに眠る二人の手は、当然のように握られていた。 「ん…」 もぞ…と、楓が身じろいだ。 「う、ん?」 それによって、矢部がぼんやりと目を開く。 「ふ、あぁ…」 大きな欠伸。そして自分の膝を枕のようにして寝ている楓に気付き、目を細めた。 「かえちゃん、起きぃ…」 「ん〜」 もぞもぞと、身じろぎながら楓も目を開けた。 「おはよぉ」 「あ、ケンおにーちゃんだぁ…」 まだ寝ぼけている。 「結局かえちゃん、ここで寝てもうたんやな」 「ん〜」 こしこしと目元をこすりながら、楓はうなずく。 「昨日遅かったからなぁ…今日は散歩、やめとくか?」 「やめない。起きるよ、その前に朝ごはん…」 矢部の膝から頭を起こして、楓はもう一度欠伸をした。 「眠そうやなぁ」 「あ、朝ごはんは4人分だね」 「ん?あぁ、そやったな。ほな上田センセ起こそう、かえちゃんは山田を起こしてきぃ」 「うん、そうする」 楓が寝室に行ったのを見計らって、矢部は上田を起こそうと手を伸ばし…たその瞬間。 「あーよく寝た!」 ガバッと上田は勢いよく起き上がって声をあげた。 「うわっ、あー…吃驚した。おはよぉございます、上田センセー」 「ああ矢部さん、おはようございます」 起きていたのにもかかわらず、上田はさもたった今目覚めたかのように起き上がって身体を捻り始めた。 「奈緒子さーん、朝だよ〜」 寝室では、楓が奈緒子を呼んだ。 「う、うーん…あ、か、楓さん。おはようございます」 「おはよー」 奈緒子も奈緒子で、無理矢理たった今起きたと言うような仕草で身体を起こした。 「き、昨日は楽しかったですね」 「そうね、とても楽しかった。あ、奈緒子さん大変」 「え?」 楓は、昨日脱いだ浴衣をたたみながらハッと声を荒げた。 「服…私、昨日奈緒子さんの家に服置いたままで来ちゃった」 「あぁ…いいですよ、いつでも好きな時に取りに来てください」 「ううん、そうじゃなくて、奈緒子さん…服持ってきてないよね?」 「あ…」 奈緒子もハッとした。池田荘で浴衣に着替えて、そのままま祭りに行った。まさか矢部の家に泊まる事になるとは思っていなかった為、当然代えの服など持ってきていない。 「じゃぁ今日は、私の服を貸しますね」 にこっと、楓が笑う。 「すいません、お借りします」 ぼさぼさの髪をぐしゃぐしゃと自ら乱しながら、奈緒子は楓に向かってペコッと頭を下げた。 「じゃあ奈緒子さんに似合いそうなものを…」 ごそごそと、楓は早速自分の着替えの入っている小さなチェストを漁り始めた。もともとは、矢部が自分のコレクションとも言える例のアレを入れていたものなのだが、しばらくの間ここで寝泊りする楓の着替えやらを仕舞うものを用意しようと云う事で空けてくれたのだ。 例のアレは一つにまとめて、矢部自身が使っているチェストのスミに追いやられている。今現在使っているものだけが、常時矢部の頭上にあると言う形になっている。 「これ…かな」 ポツリと、楓は呟きながら服を取り出した。ベージュのプルオーバーと、グレーの膝丈スカート。下半分がフレアになっていて、裾に小さな黒い花模様が刺繍されている。 「…かわいいですね」 普段の奈緒子なら着なさそうなコラージュ。だが、確かに似合いはしそうだ。 「とりあえず着てみてね」 「あ、はい」 急かされて着てみる。いつもと違う服装に気後れするが、楓が似合う似合うと言うので遠慮なく借りる事にした。 「おー、かえちゃんの服か、それ」 着替えた楓とリビングに行くと、一番に矢部が反応した。 「奈緒子さん、似合うでしょ〜」 「かえちゃんの服やから、かえちゃんの方が似合うけどな」 ケタケタ笑う矢部の横で、上田がきょとんとしている。 「じゃあ私、朝ごはん作るから奈緒子さんここに座っててね」 「あ、はい」 パタパタと台所に向かう楓を見送ってから、とりあえず上田の隣に腰を下ろした。 「…似合うじゃないか、割と」 「は?何がですか?」 唐突に上田が口を開いたので、奈緒子は何の事かと首をかしげる。 「服に決まっとるやないか、阿呆やなお前は」 ケラケラ笑う矢部に言われて、ハッと気付いて顔を赤らめながら、奈緒子は小さくどうもと言った。 「あれー?ケンおにーちゃん、トースト、セットしておいてくれたの?」 「おー、ハムエッグも出来とるよ」 ひょい、と、どこに隠していたのか、矢部はトレイに乗せた朝食メニューを取り出して見せた。 「わー、本当だ。私作るのないねぇ」」 「そんな事ないで、かえちゃんはヨーグルトとと牛乳担当。冷蔵庫から出してきてくれへん?」 「はーい」 楓と奈緒子が着替えている間に、矢部は手早く朝食の準備を済ませていたのだ。くすくす笑いながら、楓はヨーグルトをガラスの器にフルーツと一緒に盛り、牛乳のパックと一緒にリビングのテーブルにそれを置いた。 「じゃ、朝ごはん」 矢部の隣に座った楓の言葉を口切に、四人はいただきますと思い思いに口にしてトーストをかじった。 つづく どうしても終わりの方が妙な感じになってます。 う〜ん…妙に間が開いて書いてるからかなぁ?思うように書けないのが悩みです。 ウエヤマもさりげなく組み込みつつ、ね(笑) しかし、過去も現代も、なかなか進まないですなぁ… また一気に一ヶ月二ヶ月経過させてみるのも一つの手かな(笑) 2005年4月3日 |
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